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3.七夕秘話


夜空には若い男の星、女の星がうじゃうじゃいます。
天の神様はその様子を見て、縁組を考えました。
まずマサやん星とオヨネ星の縁談をまとめました。けれどマサやん星は女癖が悪かったので、すぐに離婚してしまいました。
そして次はツネキチ星とオキヌ星でしたが、ツネキチ星は乱暴者だったので、オキヌ星は流れ星になって逃げていきました。
はて、どうしたものかと、神様は考えて、いちばん真面目な若者を選びました。
2人とも黙ってよく働くので、問題ないと思ったのです。
それが織姫と彦星。
そして2人はめでたく結婚しましたが、神様の心配をよそに仲が良すぎて、毎日、朝も昼も夜もいちゃいちゃして、ついには働くことを忘れてしまいました。
「おまえら、ええ加減にせえよ」
神様が何度も怒ったのですが、まったく通じません。
「ええやんか。ほっといて」
そこで神様は罰として、2人を天の川をはさんであっち側とこっち側に引き離してしまったのです。
引き裂かれた織姫と彦星は怒り狂い、ハンガーストライキを始めました。もちろん仕事などしません。なにもしないで、ご飯も食べないで、毎日ごろごろするだけです。
生活態度を改めさせようと思ったのだけれど、これでは2人とも死んでしまいます。困り果てた神様は2人を呼びました。
「なあ、年イチ会えるようにしたるから、機嫌直して働いてくれへんかなあ」
「いやですわ。なんで年イチやねん。毎日一緒にいたいわ」
彦星は怒りました。
「毎日一緒にいたらあんたら全然働けへんやんか」
「分かった。年イチ会えるんやったら、年イチだけ働いたる。なあ、オリちゃん」
「うん、うん。そうしよ」
相変わらず2人は仲がいい。
「それに言うとくけど、そもそも俺らをくっつけたのは、神さん、あんたや。あんたにも責任があるねん。俺らだけをとがめてもあかんよ。神さんにも責任取ってもらいたいねんけどなあ」
彦星は更にまくしたてるように続けました。
「オヨネ星も言うとった。神さんはマサやん星がバツ2やということを隠して見合いさせよった、ええ加減なおっさんや、ってな。オキヌ星はあんなことになってしもたけど、あれかて神さん、あんたの責任や」
「責任てか。俺かて一生懸命、神業やってるんや」
「そんなこと言うても、ええ加減なことしてるやんか。おい、おっさん、責任取れ」
「おっさん、言うな。ほんでどうせえ、ちゅうねん?」
「せやなあ・・・・」
彦星はしばらくして、ぽんと膝を叩きました。名案が浮かんだのです。
「神さんとこ、結婚して30年くらいやったなあ。あんたとこも俺らみたいに川のむこうとこっちで離れ離れになるか、それがいややったら、俺ら2人をもと通り一緒に暮らせるよう戻すか、や。どっちか選んでくれ」
織姫も彦星も元に戻してもらえるものと思っていましたが、
「分かった。ほんなら、俺も嫁はんと別居するわ」と。
「はあ?」
2人はびっくりしました。
「ちょうどええねん。最近、嫁はんきついんや。ぽんぽん言いよる。俺も参ってたとこやし、この際、別居した方がええかなあ、とも思う」
彦星は慌てました。
「待て。それはあかん。嫁さんは足が悪いし、神さんも糖尿やろ。ええ歳になって、意地張ってる場合やない。一緒にいとき」
「そうや、そうや」
織姫も同じ意見です。
「いやいや。俺ら、潮時やねん」
神様は言い張りました。
しばらく沈黙が続いたあと、彦星と織姫はうなずき合い、意を決したように言いました。
「分かったよ。もうええ。俺らがおとなしく神さんの言うこと聞いて、川のあっちとこっちで離れ離れになったらええんやろ。年イチで我慢したる。その代わり、神さんもヘンな気起こすな。ええか」
彦星に諭され、神様は考え直しました。
「分かった。心配かけて悪いなあ」
そして、続けました。
「確かに、おまえらにつらい罰を与えて、俺だけ涼しい顔してるのも気が引けるから、俺なりに責任とるわ」
「また嫁さんとどうの言うんやないやろなあ」
「ちゃう。心配するな。ええこと思いついた。おまえら、こっそり会えるようにしたる。けど俺にも世間体というもんがあるから、罰をおっぴらにチャラにはできん。こっそりや」
「そんなことできるんか。どうすんねん」
「地下道や。地下道つくって、橋を渡らんでも行き来できるようにするんや。そしたら会ってるとこを、ほかのヤツに見られんですむ」
「そらええなあ。けど誰がその地下道を作るねん」
「オリオン組に頼んでみるわ」
「引き受けよるかなあ」
「あいつら口かたいし、マッチョ集団や。それに夏はヒマやから、カネ積んだらやってくれよるやろ」
こうして地下道はあっと言う間に完成し、織姫と彦星は昼間は離れたところで仕事をし、仕事が終わるとこっそり逢瀬を楽しめるようになったのです。
私ら人間は、7月7日に雨が降ると、あの2人、今年は会えないねえ、かわいそうに、と言いますが、本当は毎日会っているのです。
そのことはお空のみんなも、地上の人間も、知りません。知っているのは、神様とオリオン組棟梁のベテルさんだけです。
愛し合ってるのに年イチしか会えないなんて、かわいそうすぎるもんねえ。

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