見出し画像

乗馬教室2 「俺はちょっとゴロンや」

モンテクリスエス 「俺はちょっとゴロンや」

今日のお馬さんはモンテクリスエス。
2005年生まれ。鹿毛。彼は2008年から2012年の4年間で2億3千万稼いだ、「仕事のできる男」である。
今、19歳だから、人間年齢でいうと、50歳代から60くらいのジイサンになりかけのオジサンなのかなあ。
多分性格が良いので、競走馬引退後、乗馬教室の馬として調教されたのだろう。そして辛抱強く、大勢の下手くそな受講生の相手をしてきたはず。
私は乗馬教室に通いだして、17回目になるが、たくさんお馬がいる中でこれまで半分くらいがモンテだったような気がする。
何とか自力で馬房から馬を連れて出てこられるようになったが、モンテはいつも困難だ。
その日もひどかった。モンテのお部屋の前で、
「モンテくん、こんにちは。今日もよろしくね」
と声をかけながら、中を覗くと、モンテは猫がするような箱座りをしていて、目だけこちらに向けた。
「ほう。またオマエか」
モンテの目がそう言った。いや、私のことなど覚えてなくて、
「誰や、おまえ」かもしれない。
この状態で連れ出せるかなあと不安になりながら、ムクチを手に扉を少しだけ開けて中に入った。すると、モンテは敷き詰めたオガに鼻先をもぐらせ、フガフガしだして、
「ムクチ、着けさせたれへんわ」と。
「いや。ちょっと・・・・それ、困るんよ」
私もべたっと座り込んで、オガだらけになりながらモンテの喉の下に腕を差し入れて顔をあげさせようとする。しかし微動だにしない。
「ねえ、頼むから顔、上げてよ」
「いやじゃ」
何度も挑戦したが、ダメ。モンテの体勢に変化なし。
大きな顔の前でしゃがんだまま、馬のお慈悲温情を待っていると、しばらくして顔が上がった。そして、一瞬、モンテが立ち上がろうとした。
「よし!」
次の瞬間、私のひそやかな歓喜むなしく、彼は立ち上がらず、寝転がった。
「俺、ちょっとゴロンするわな」
目線はこちらに向いているのだが、彼はしんどそうでも申しわけなさそうでもない。くつろいでいるようにしか見えない。
「とんとん。お客さん、お客さん、起きてください。寝ちゃだめですよ」
そんなことを言いながら、私は立ったり座ったり、時には頬を撫でたりして機嫌を取ってもみたが、モンテは無視。
彼は絶対に心の中で笑っている。
5分ほど経っただろうか。廊下から、
「どうかしましたか。大丈夫ですか」という、インストラクターさんの声がした。
「先生、モンテくんが寝てしまいそうなんです」
半泣きで訴えると、先生が笑いながら、
「じゃあ、一緒に行きましょう」と言って、馬房に入ってくれた。
「モンテ、行くよ」
先生のその一言で、彼はさっと立ち上がった。
「へい、旦那。わかりやした」。そんな感じ。
あっけなくムクチを付けられて、何の抵抗もなく部屋から出た。
そこからは先生が一緒だったので、モンテは黙々と仕事をこなした。ほんといい子だ。
レッスンはとっても楽しかった。
ちょっと困らされるけれど、私は「仕事のできる男」モンテが大好き。ひとりよがりかもしれないけれど、モンテが私を嫌っているような気もしない。
次回もモンテだったらいいなあ・・・・。今度はきっとうまくいく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?