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乗馬教室5 立つ&座る

モンテクリスエス  立つ&座る

お馬さんにまたがってお尻を浮かせたり着いたりの練習をしている。
これまで静止した馬の背中で、あぶみに足をかけて、立ち上がったり座ったりする練習をしてきた。レッスンのあいだずっとお馬さんにじっとしていてもらって、そればっかりしていたこともある。
それだけ大切なことなのだそうだ。お箸の持ち方のように、最初にきちんと習得しておかないと、ずっとへんてこなままなんだろうね。
静止の状態で立つ&座るができるようになったら、お馬さんに歩いてもらって練習をする。
それができるようになったら、軽速歩(けいはやあし)といって歩くよりちょっと早いやつで練習する。
今日はモンテにゆっくり歩いてもらって、立つ&座るの練習を始めた。
お馬の一方の前足が出るときにお尻を浮かす、そして逆の前足が出るタイミングでこちらのお尻を置く。
そう教えてもらったので、モンテの前足をのぞき込んでいたら、
「はい、体起こして顔を上げて。視線は前です」って言われた。
「あのう、お馬さんの前足が出るのを見たいんですけど・・・・」
私が口ごたえをすると、
「馬の前足を目で見るのではなくて、体で感じてください」と、無理難題が・・・・。
分からん。できない。
にもかかわらず、
「じゃあ、今度は軽速歩でやってみましょう」と、さらなるミッションだ。
先生が軽速歩の合図を出すと、モンテは少しだけ速度をあげるんだけど、私が立ったり座ったりを始めるとしばらくして勝手に止まるんだ。何度やってもモンテは毎回止まった。
「なんで止まるん」
「おまえ、ぜんぜんタイミングあってないねん。上でどすどすやられたら走りにくくて仕方ないし、背中痛いんじゃ。いくら仕事でもいやや。ほんま下手くそ。」
「ごめん。がんばるから」
「がんばらんでええ。俺も若くないから、つらいことはいやや」
モンテは面倒くさくてやりたくないときは、いつも歳のせいにするんだ。
「そんなこと言わんと助けて」
「いやじゃ」
「さっぱり分からんの。あー、も、いや。モンテに見捨てられたら、あかん、心折れる」
「そんなに悩んでるんか」
「うん」
「どうしてもできるようになりたいんか」
「うん」
「なら練習するしかないわな」
「でも、モンテがいややって言うから・・・・」
「しゃあない、付き合ったる。その代わり、あきらめるな。できるまでやれ」
モンテは口は悪いけど、いいヤツ。
「モンテ、本当は優しいんだねえ。馬にしとくのがもったいないよ」
「まあ、がんばれ。それから言うとくけど、俺は人間でなく、馬に生まれたことを誇りに思ってるんじゃ。」
その日のレッスンで1回だけタイミングが合った。先生も喜んでくれた。
「時間になったけど、できたときの感覚を覚えといてほしいので、最後にもう一回ね」
「はい!」
できそうだったけど、できなかった。
「惜しかったので、次が最後の最後ね」
「はい!」
できなかった。
「じゃあ、オマケで最後の最後の最後ね。もう1回だけしましょう」
「はい!」
5分の延長となった。先生はいい人だ。でも私はできなかった。
帰り道モンテがぶつぶつ言った。
「残業してしもた。あーしんど。俺、残業してしもた。あー、しんど」
「ごめんね。でもありがとう。モンテは優しいから、ほんと好き」
「もうええって」
洗い場でお手入れしながら、モンテに聞いてみた。
「現役のときにあんなに活躍したのに、今こんな下手くその相手させらるのって、やっぱり、いや?」
すると、モンテは首を横に振った。
「過去の栄光にすがるのはつまらん。その時その時を一生懸命やるのみや。俺もがんばるから、おまえもがんばれ」
今日はモンテに励まされた。
ありがとう。いつも楽しいねえ。

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