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巡り巡って、春が来て

まだ肌寒い函館市の4月。
風は強いし冷たいし、気温も一桁二桁を行ったり来たり。
そんな中でも桜は美しく咲き誇って、春の訪れを僕らに知らせる。
桜を見ながら歩いていると、「ああ、またこの季節がやってきたんだな」と思う。
春。それは誰にとっても出会いと別れが存在する季節だ。
3月が別れ、4月は出会い。
出会いと別れが春に特別な意味を持たせるかと言えばそうではないと思うが、僕にとって出会いの4月はとても大切な時期だ。
なぜなら春が、4月が、君との出会いを連れてきてくれたから。

2017年4月9日。
僕は今日、高専に入学し晴れて高校一年生へとステップアップを果たした。
中学校からの友達や部活の先輩がいること、中学生時代に理科を得意教科としていたこと、「高校?いや、僕高専なんだよね」って言っただけで相手にかっこいいとか頭いいとか、そういう印象を与えれるところ。
高専に入学した理由なんてそのくらいの軽い理由で、正直な話そんな真面目に勉強しなくても5年間留年せずに卒業まで辿り着ければ準学士もらえるから、友達と遊び過ごしてやろうかと考えてた。
でも、入学式当日。
僕の名前があったクラスの名簿に、中学が同じだった友達の名前はなし。
さて、どうしたものか。遊び過ごすにも相手がいなくては、一人遊びは悲しすぎる。だけど、元は小説とゲームが友達っていう人間だった。中学を通る前の穏やかな生活に戻るのもありかもしれない。
そう思って友達を作るか否か、迷っていた。

授業開始日。
健康診断と軽い自己紹介タイムが終わった昼休み。
まだ半日も経たないうちに、クラスの人たちは友達を作ってグループになっていた。
健康診断の時間と自己紹介タイムを使って、「友達を作るか否か」脳内会議を繰り返した結果、喋れる人を数人作っておいた方がいいだろうという結論に至った僕は、早めにご飯を済ませて自己紹介タイムの時に目をつけた人たちに話しかけに行こうとしていた。
だが、まだ弁当を食べ終わっていなかったり、他の子と話していたりでなかなか話しかけに行けない。
周りの様子を見ながら話しかけに行くタイミングを探しているとき、後ろの席の子と目があった。彼とは少し面識があって、さっき健康診断の時に世間話をした。「寒いねー」ってたった一言だけど。
目があったはいいけど、このままでは気まずい。微笑んで誤魔化すか?いや、なんか話してみるか?考えながら彼の手元を見るとスマホ。画面には僕の好きなゲームの画面。
「え!君もキャンパスやってるの!?」
自分でもびっくりするくらい大きめの声がでた。
「ごめん」小さめに謝る。
「あ、っと、君もやってるの?」
驚きの表情が少し残っている状態で、今度は彼から聞かれる。
「うん、やってるよ!最近始めたばかりなんだけどね。結構楽しいよね!」
「楽しいよね。僕は前少しやってて、出戻りなんだ。好きなキャラとかっている?」
「えっとね、アダムってキャラが好き」
「アダムか。強いしかっこいいよね。僕は忠臣ってキャラが好きだよ」
「忠臣か!忠臣も強いよね。あと和風な感じとかいい」
ゲームの話で盛り上がれたことが今まで少なかったから、とても嬉しかった。話が盛り上がりすぎて昼休みは彼との会話で使い果たしてしまったが、充実した時間を過ごせたし、君という友達ができた。
それだけで充分だった。

それからの学校生活、君と毎日教室で顔を合わせて、会話したり一緒にゲームしたり、テスト前は勉強もした。
僕より君のが頭が良かったから、いつも君が先生。僕が唯一君に優っていたのは英語と化学で、その時だけ僕が先生だった。切磋琢磨してる内に学年トップを僕らが飾っていた。
プログラミングの時間はライバルで、どっちが早く課題を提出してPC室から教室に戻れるか競走していた。
共通で苦手としていた社会科の授業は一緒に勉強して頑張って覚えて、総合成績73点で一緒に単位を貰った。微妙な点数なのに同じだねって笑った。
2年生に上がった僕たちは学科選択という名のクラス替えによって離れてしまったが、仲の良さが崩れることは無かった。
お互いのクラスに遊びに行って今まで通り昼休みは一緒に過ごして、今まであまり使わなかったLINEを使って放課後話すようになって、休日は君の家で一緒にゲームして過ごした。
気がついた頃には友達から親友に昇格していた。
その時はまだ、残りの高専生活も君がいると思ってた。

君の調子に異変が起き出したのは、3年生ももう終わりに近づいてきた1月のこと。
普段であれば1~2分で返信が来ていたLINEに、既読すらつかなくなった。
昼休みに教室に行ってもいいかのLINEにも、ゲームの誘いのLINEにも、何のLINEにも返信が来なくなった。遅れても1日後には返ってきていたのに、1日経っても、2日経っても、1週間経っても返ってこなくなった。
不安になった僕は君の教室を覗きに行った。
そこに君の姿は見当たらなくて、再度LINEを送ってみる。
[最近君が見当たらないのだが、大丈夫かい?]
このLINEに返信が来たのは3日後だった。
[すまない。体調がずっと優れなくてね、しばらく休んでいたんだ。]
[今日は学校来てるのかい?]
[うん、来てるよ。]
来ているということなので、教室に君の様子を見に行く。
様子を見る限り本当に体調が悪いだけだったのかもしれない。でも、元々人間と関わるのが苦手な人だったから、何かあったのかと僕は薄々思っていた。
まだその時は確信が得られなかったけれど、明らかにクラスにいる君の顔はしんどそうだった。
そして確信を得られないまま週末がやってきて、次の月曜日から君はまた学校に来なくなった。

君が学校に来なくなって1ヶ月。
久しぶりに学校で君の名前を聞いたのは、国語担当の教師の口からだった。
僕はクラス内の役職として、国語の教科担当をしていた。その日は点検により回収されたノートの返却の為に呼び出しされていた。
高専には職員室というものはなく、代わりに先生1人につき一室、教員室が設けられている。
先生の教員室前まで行くと、部屋前に設置されているテーブルに各クラス分のノートが積まれていて、その中から自分のクラス分を見つけ持ち帰ろうとした時、教員室から先生が出てきて声をかけられた。
「君、情報科の彼と仲いいよね?」
彼とは親友のことだ。
「はい、仲良いっすけど...どうかしたんですか?」
「いや、彼、学校辞めるらしくてね。国語の成績についてチャットを送ったのだが、既読も返信もこないので見るように言っておいてくれないかな」
彼が学校を辞める?え、何故だ。
理解が追いつかなかったが、とりあえず
「はい、わかりました」
とだけ返事をして、教室に戻る。
教室に戻る間も、残りの授業時間も、バイトしてる時も家に帰ってからもずっと、彼が学校を辞める理由だけを僕は考えていた。
なんで僕に相談もなしに辞めるのか、感情的になって1人で泣いたりもした。
少しして冷静になった僕は、先生から頼まれていた内容に含め、学校を辞めるという話が本当か否かを確かめるためにLINEを送った。
こういう時に限ってすぐ返信がくる。
[うん、辞めるよ]
[そうか。何かあったのかい?]
[クラスで嫌なことがあってね。教師もゴミすぎて辞めることにしたよ(笑)]
そういうことか。
元々人間と関わるのが苦手な君だが、周りのせいで辞めることになるとは。
君が学校を辞める原因を作った人たちと、守れなかった自分の無力さに、しばらく腹の虫が収まることはなかった。

君は学校を辞め、僕は4年生になった。
2月のあの日から少しLINEで話はしていたが、3月に入ってからは何一つLINEをしなくなったし、こなくなった。
そのまま時が経ち、4月、始業式。
君と出会った頃を思い出す。
今年の4月からはもう、君はいない。
何故かとても切なくなった。
君と話していた日々が、学校に来る楽しみが、僕の居場所が、無くなった気がした。
寂しさを感じた僕は君が恋しくなって連絡しようとしていた。でも、久しぶりにLINEをしようにも、内容が何も無いものを送るのは気が引けた。
いま、君が求めているのは人と関わることでも、僕からのLINEでも何でもなくて、ただ人と関わらず休める時間だと思っていたから。
だから必死に理由を探して、やっと見つけたのは4月末。桜が満開に咲いてから思い出した。
1年生のこの時期、僕はとある住宅街の桜を見に行って、綺麗だったから写真を撮って君に見せた。
道の両脇から桜が咲いていて、まるでトンネルのようになっている。
薄いピンク色の可愛らしい桜が満開に咲くのに、住宅街ということもあってかそんなに人は居なくて、それもまたいい。
有名な五稜郭公園の桜を見せても君はうんともすんとも言わなかったのに、ここの桜は「綺麗だ」と言った。実際に見に行きたいという事だったから、一緒に散歩しにいって花見した。
それからここは僕にとって、君との思い出の場所となった。
そうだ、これだ。
この桜なら、話の種になるかもしれない。
そう思って僕は休日、桜を見に出かける事にした。

久しぶりに見に来た桜は、あの時見たよりも美しく咲き誇っていた。
青空に映えるピンク色。
あの時のように君が隣にいないのは寂しいけれど、綺麗な桜を見に来れたのは純粋に嬉しかった。
写真を撮って、LINEで君に送る。
すぐに既読がついて返信がくる。
[前に見に行った所かい?今年も綺麗だね。]
覚えてくれていたことが嬉しくて、桜を見上げながら僕は涙を流してしまった。
[そうだよ。君と見に来た場所だよ。綺麗だよね。]
[うん、綺麗だ。そういえば最近調子はどうだい?学校始まってるだろう?]
[まあ、普通だよ(笑)]
[そうか。僕は最近昼夜逆転してるよ(笑)]
[相変わらずゲームかい?(笑)]
[そうだよ(笑)]
[そうだ。今度遊びに行ってもいいかな?君とやりたいゲーム買ってあるんだけど。]
[もちろんいいよ。]
どうやら元気そうだ。それに遊ぶ約束もできた。
桜様々だな。

そんなこんなで今年で6年目。
6度目の春、そして桜だ。
今年もまた写真を撮って君に送る。
[懲りないね(笑)でも、今年も綺麗だ。]
君から返信がくる。
どんなに辛いことがあっても、人生に疲れても、巡り巡ってまた春はやってくる。
君との温かい思い出をつれて。
[今年も綺麗だろ。また来年見せてやるからな(笑)]
[楽しみにしているよ(笑)]
[この後少し家に寄ってもいいかい?]
[もちろん。準備して待ってるよ。]
さて、寒くなってきたしそろそろ君のところへ行こう。
来年は7年目か。
もし、10年目になった時も君と一緒にいることが出来たなら、その時はまた君と一緒にここに来よう。
そして、一生一緒にいることを桜の木の下で誓おう。
そんな事を考えながら、僕は桜並木に背を向け君のもとへと歩き出す。
それじゃあ、また来年。

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あとがき
ここまでお読み頂きありがとうございました。
初めてまともに書きました。プロットも無しにひたすら書いたので、話の順序が所々ぐちゃぐちゃしているのは申し訳ないです。
この話はほぼ現実にあった事をそのまま書いています。まあ本当に時々補正をかけていますが(笑)
一番最初にある写真、これが毎年見に行っている桜です。
話では彼ですが、現実の親友は彼女です。そして私自身も女です。しかしながら私たち二人とも女という立場に心底ウンザリしていまして、中性なのでここでは男子という事にしました。
彼女と見た桜を、私は毎年見に行っています。
色々ありまして彼女は外に出ることを好まないので、私が一人で行って写真を撮って彼女に送っています。
かれこれ出会いから6年経ちました。これからもきっと仲良しでいるんだと思います。
そして離れられないまま、函館で一生を終える気がしています。東京じゃなくてもとりあえず北海道を出たい!と叫んでた中学生の私、ごめん。
今回は初めてなので、私と親友の6年の歩みを長々と書きましたが、来年は今日から1年分でまた同じように書けたらいいなと思っています。
その時はまた、読んでいただけたら嬉しいです。
今後ともnoteやTwitterにて、三宅詠万(みやけえま)をよろしくお願いします。

2023年4月24日
三宅 詠万


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