あの人は、優秀な兵隊が欲しかったんだ

前職の時、いつも親身になってくれた上司がいた。僕が入社した時点ではもうすぐ管理職というポジションで、リーダーシップもあり、職場の全員から慕われていた方だった。そして、すぐに管理職になった。

当然、会社に入ったばかりの僕のことも面倒を見てくれたし、たまに二人になる時があれば、「最近調子はどうだ?」と声をかけてくれた。もちろん、その方自身の仕事のスキルも申し分なく、「この職場は○○さんがいる限り大丈夫だ」と言えるくらいの絶大な方だった。

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2015年の1月、外で映像撮影をしていることが会社の人達にバレていたことが、なんとなく判明した時。僕がまっさきに声をかけなければいけなかったのは、その上司だった。言い出すタイミングがなかなか作れずにいたが、たまたまいつものように向こうから声をかけてくれた。

「宮原どうだ、最近の調子は」

「はい…実は…あの…それなんですけど…」

勇気を振り絞って僕は会社を辞めたいこと、実は今副業のようなことをしていることを全部伝えた。

上司はゆっくり聞いていたが、「もう一度よく考えて、それでも気持ちが変わらなかったらまた話そう」と言った。

ああ、真剣に向かい合ってくれるのかと。この人はやっぱり誇らしい上司だなと、そう思った。

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会社を辞めたタイミングで、歓送迎会があった。今までお世話になった人、僕の代わりに入ってきた新しい人が集まった。最後だからということもあり、僕は色々な人とお話をした。

当然、例の上司とも話をしたかった。今までの感謝の気持ちを伝えたいと思った。

その上司と話をした時、彼は、酔っていた。

「お前さぁ…迷惑ばっかかけやがって、こんなタイミングでいなくなるなんてよ、なんだと思ってんだよ」

僕も、酔っていた。だから今となっては言葉の詳細は違う可能性が高い。けど、彼はそんなことを言った。

「そんなんじゃどこ行ってもやっていけねぇぞ…」

酔っているとはいえ、いや、酔っているからこそ、普段と全く違うその態度に、僕は愕然とした。今まで親身になってくれていた、信頼していた彼が、直接そんなことを言ってくるなんて、考えたくなかった。

最後の最後、職場の方とのお別れの場面で、僕はその上司の真の顔を見てしまった。

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今になってよく考えれば、その上司は、仕事をしていただけだった。上司の仕事は職場を円滑に回すことであるし、そこに穴が空くというのは彼の仕事に迷惑をかけることになる。

僕は、彼がすごく人情深い人で、人を大切にするんだと思っていた。しかし、そうではなかった。彼が大切にしていたのは、職場だった。管理職として、職場を回すことをまっさきに考えていたのだ。

僕のことを大切にしてくれたのではない。仕事を円滑に回せる、兵隊がほしかったのだ。時間をかけて育てた兵隊がいなくなることが、彼をイライラさせたのだろう。

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彼は自分の仕事をしただけで、社会人として、会社員として、何も問題はないと思う。それが管理職の仕事だと思うし、そんな彼の仕事に迷惑をかけたことは悪いと思っている。

でも、自分勝手なことを言わせてもらえば、そんな彼の元から離れることができて、僕は本当によかったと思っている。

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