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中立国が戦争当事国へ軍需物資や武器を供給することは、戦争行為という認識だった。

アメリカは参戦しないという公約に反する武器貸与法

この本が書かれた第二次世界大戦までの国際法では、「中立国が戦争当事国に軍需物資や武器、戦争必需品を供給する」ことは戦争行為として認識されていたそうです。現在、ウクライナや中東での戦争を見ていると、この認識は変わっているように感じますが、素人にはよく分かりません。ただ、プーチン大統領が「西側のウクライナへの武器支援は戦争行為だ」という旨の発言をしたという報道を目にしたことはあります。

一方、民間人や企業は支援できたそうです。しかし、民間人と企業だけで支援活動が閉じていれば問題ありませんが、支援先は戦争中ですからそうはいきません。支援物資の輸送は攻撃対象になります。だから軍の護衛が必要になります。つまり、民間の船を軍艦が守る、ということです。これは国際法では参戦したことになり、相手国にアメリカを攻撃できる論理的根拠を与えることになります。
従って、戦争当事国へ物資を支援することは「他国の戦争には参戦しない」というルーズベルト大統領と民主党の公約に反することになりました。当時のギャロップ世論調査においてアメリカ国民の83%が外国の戦争に関与することを反対している中、連合国への援助を民主党綱領(公約)に反することなく行うことは、民主党指導部にとって難問でした。

ルーズベルト大統領と民主党はこの難問を、「まるで取るに足らない問題」であるかのように軽く扱うことで解決しました。軽い問題にして国民から注目されないようにし、ひそかに法案を成立させることができました。

自衛と和平のための「合衆国防衛促進法」として立法化

取るに足らない問題に対する立法として成立させた法案は、その説明においても、反戦公約と矛盾しないように考えられたロジックを使い、実態を表すことなく説明がなされました。

「武器貸与法は戦争のための立法措置としてではなく、その反対、つまり平和のための立法措置として執行されるべきものだ。」

武器貸与法の生みの親はチャーチル首相

では何故、ルーズベルト大統領はこのような策を練って苦労して武器貸与法を成立させたかったかというと、イギリスのチャーチル首相との秘密の約束があったからです。

「誰が法案を起草したのか。」

法案の通過まで上・下院外交委員会の聴聞会や討議では起草者を探す執拗な追求がなされましたが明かされませんでした。明かされたのは、法案成立から6年後のモーゲンソー財務長官の「Collier's日誌」1947年10月18日号で語られた内容からでした。
これは、チャーチル首相からルーズベルト大統領に宛てた手紙の抜粋で、チャーチル首相が「アメリカからイギリスへの援助を提案した」内容でした。「Collier's日誌」の中で、「ルーズベルト大統領はこの提案に賛同し、これを発展させて武器貸与法は生れた」と語りました。

しかし、ルーズベルト大統領とチャーチル首相との秘密の約束は、1940年のラムゼイ・ケント事件というスパイ事件ですでに発覚していました。
ラムゼイ・ケント事件というのは、イギリス大使館に勤務していたアメリカの外交官ケントが、アメリカの外交用郵便袋から通信文書を盗み出し、そのうちの一部の内容をイギリスのラムゼイ陸軍大尉とロシアの女性スパイに漏らしていた、というスパイ事件です。その盗み出した通信文書の中に、ルーズベルト大統領とチャーチル首相との秘密往復書簡もありました。
外交官ケントとラムゼイ大尉の逮捕・収監されたニュースは「ロンドンタイムズ紙」や「ニューヨークタイムズ紙」で報道されていました。

しかし、アメリカの連邦議会では秘密往復書簡の内容を明らかにすることはありませんでした。

合衆国大統領は、法律の趣旨を偽り、目的と政策について正しく伝えなくてよいのか

ルーズベルト大統領の外交の前例がとがめられず、法的にも、倫理的にも、適切だった、と受け入れられていくならば:

合衆国大統領は、その秘密の目的を推進する法律を成立させるため、連邦議会と国民に、その法律の趣旨を偽ってもよいことになる。また、そのようにして法律が施行されたとして、その後も、その法律のもとで実施を目指す目的と政策について正しく伝えなくてもよいことになる。

以上のように、ビーアドはアメリカの武器貸与法成立について著書の中で検証していました。

ひっそりと重要法案を成立させる。これは政治の常套手段?

ルーズベルト大統領が使った「趣旨偽装」手法と、正しく伝えない「へりくつ説明」手法は現在の日本でも使われています。私たちの生活に密接に関わってくる重要法案なのに、知らないうちに、ひっそりと成立しているということがあります。そういうときは、「何かまずい裏事情があり、それを国民に知られると誰かが困ることになるからか」と勘ぐってしまいます。

最近では、水道の民営化法、種子法改正などが思い浮かびます。どちらも国民の「水」と「食」という重大な問題なのに、知らないうちに決まっていました。将来、何か大きな問題が発生して取り返しのつかない事態になったりしないといいですが。