「ドラマ アンサング・シンデレラ」解説第三話


 どの職業もそうですが、新人はこのような体験をして大きくなっていきます。このような思いを受け止め、導く先輩の存在は大きいです。(日本の薬局薬剤師はこういう先輩を持たずに自分で大きくならざるを得なかった事例が多いのが残念なところ、今の6年制の薬剤師はそのあたりは改善されていると思います。)

毎回このセリフが出てくるのが好感を持てます。職業としての薬剤師は、
入院して治療100%の生活を送るところから、
退院後、外来で生活しながら薬物治療を中心とした治療がうまくいくよう支えるのが仕事です。

いろいろな病院薬剤師の学会で出てくる話題です。病院薬剤師の給与が安すぎて、特に男性が結婚を機に辞めてしまうことがあります。各種調査を調べると、薬学部の学費に対して給与が安いという意味も含まれるようです。

持参薬鑑別とは

患者さんは入院する時に「普段飲んでいる薬を持ってきてください」と言われます。その薬を継続して飲んでもらうこともありますが、実際に飲んでいる薬を調べて、今後の治療に活かす場合もあります。(医療機関によっては、持参薬は入院中は飲まずに病院で改めて処方するところもあります。これは診療報酬の体系で決まっています)
お薬手帳や薬情も一緒に持参されますが、実際に服用している薬と一致していない(全部の資料が揃っていない場合や資料事態が古い場合などさまざまです)
 持参薬の錠剤のシートが1錠ずつ切られていることがあり、数を数えるのが大変だったり、薬を入れている容器に全く関係のないもの(時には触れるのも危険なもの(ゴミやら虫やら))があったり、意外と危険な業務です。

製剤の工夫と疑義照会とトレーシングレポート、そして服薬フォロー

アダラートCR(一般名:ニフェジピン徐放剤(24時間持続))は長時間効果の持続しないニフェジピンを錠剤の設計の工夫でなんとか24時間聞くように作っています。(錠剤を3層にしている:外側のコーティング→短時間で溶けて効果が出るような仕組みの薬→ゆっくり溶けてゆっくり効く薬)これを割ってしまうと、24時間効果が持続しなくなります。(ただ、論文の上では割っても効果は大きく支障が出ないというもののあるようです。)

 この場合は、処方元の医師に連絡する必要があります。しかし、新田先生のように仕事を終えて夜から透析をする例では、処方箋を薬局に持っていく頃には医師が勤務を終えていて連絡がつかない場合が多いです。
<血液透析に関する解説>いろいろな形があります。
一般社団法人全国腎臓病協議会(略称:全腎協)
https://www.zjk.or.jp/kidney-disease/cure/hemodialysis/live-well/

一般的は透析に4-5時間かかります。診察の後に医師は処方箋を発行します。処方箋を発行してから透析に入るので、その間に医師が勤務を終えて帰っていてもおかしくありません。


実際の業務では添付文書やインタビューフォーム、メーカーのサイトにある医薬品情報を見て粉砕の可否を判断します。論文レベルの記載で調剤の可否をする場合は、その論文の信頼度を問う必要があります。論文ではOKでもメーカーが粉砕や分割を保証しない場合も多いです。
 なお、調剤室にはインターネットに接続したPCがあります。

 今回のように、医師に連絡がつかないが患者が薬を持っていない場合は、とりあえず薬を渡し次回診察までにトレーシングレポートにて情報提供し、次回診察の際に医師の判断材料として貰う方法があります。この場合、患者さんに血圧を測ってもらい、次回診察までの間に患者に確認したデータを提供する方法もありです。医師の判断について、次回処方箋のコメント欄に書いて一言書いてもらうとよいでしょう。

 ドラッグストアでは店舗数の拡大、利益を最大限得て次の事業につなげるために人件費をなるべく抑える傾向にあります。そのため、店舗にいる薬剤師は非常に少なく、彼らも商品の品出し在庫発注をしながら、調剤の業務を行います。処方箋も幅広いところから来るので、在庫の調整が難しいです。

 病院(特に機能評価を受けている大きなところ)や薬局と比較して違うところは「先輩がいない」事が多いことです。教育研修の担当はいるにはいるのですが、そこまでのアクセスが難しいという課題があります。
 薬局も、10-20年前は店舗数の拡大が激しかったので、一緒に働いている先輩が2-3年上ということが珍しくありませんでした。そういう状況なので、労務や調剤報酬に関して、経営者にやり込められることも多々ありました。他の店舗のスタッフと仲良くなってはいけない(経営者にたてつこうと考えさせないため)というのもありましたねえ(今はLINEでこっそり繋がれる:これも店舗内いじめが解決しない原因でもあるので良し悪し)

マンガではじめる薬局マネジメント 薬局長サポートブック
https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524258680/

上記のような書籍が出るのはここ最近です。

漫画掲載時には小野塚の家の積ん読にはあったんです。「薬の比較と使い分け100」
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758109390/

テレビでは掲載されなかった(著者号泣)


若者のやりがい搾取の構造

私立薬科大学の学費は高いです。年間200万円程度+教科書代+実務実習の費用です。これで6年通うわけですから、学費だけで1200万円です。その上自宅外から通うことになったらさらに年間100万円以上仕送りが追加されます。他の学部、特に文系の学部と比べてカリキュラムが詰まっていますのでアルバイトもあまり多くできず、どうしてもお金がかかります。
 なお、国公立大学の場合は年間の授業料は 535,800円で、私立大学の約半分です。私立と比べて家庭の収入による減免の枠が多いのも特徴です。(ただし、上位国公立は大学に行くまでに進学に実績のある私立中学・高校に行っている人の割合が多く、こちらも親の負担は大きいです。)地元に自分の力で入れそうな国公立大学がある人はほぼ一般の大学生と同じだけの金銭的負担で大学にいけますが、ごく少数です。
 奨学金を返済しながら住宅ローンを返済するのは大変+特に女性の場合は出産育児で一旦仕事をセーブすることを考えると結婚までに返しておきたいと考える人がいることから、なるべく年収の高い職場に行きたいと考えるのも自然です。


漫画の作者の方も言及していますが、仕事に忙殺されて最初のやる気を失いつつある若者はどの業界にもいます。

 体力がありなおかつまだ知識も身についていない若者のやる気を利用して、思うがまま動くコマにしている管理職経営者層がいることも問題です。そしてここ20年以上続いている人員削減のおかげで、若者に小ズルく立ち回るよう導く先輩も少なくなっているのも大きな問題です。荒神さんのように、自分の道を貫く人を活用できる職場はすごいのです。

 ドラッグストアではパート従業員の比率が高く、急な出勤になることが多いです。そのため、研修どころか定期的な受診もままならない場合もあります。パートの方も別に休みたくて休んでいるわけではないのですが、「安いものを早く買いたい」客の要望の歪みがこうした弱いところにぶつかっています。

鉄剤の服用上の注意点

透析患者はどうしても貧血になりがちです。血液検査にてヘモグロビンが少ないとされた場合は鉄剤が処方されます。内服の鉄剤は小腸で放出されるためどうしても消化器に刺激があり、悪心嘔吐を起こすことがあります。これを軽減するために、顆粒になったり適応外ですが水剤になったりします。注射のほうが消化器症状が少ないのですが、投与したら取り除けないという欠点があります。(注射のほうが鉄過剰症になりやすい)また、腎性貧血の方に注射で鉄剤を与えるのはガイドライン上効果を評価する上での回数制限(一区切りとする回数)があります。
一般的に鉄剤の消化器症状は継続投与していくうちに軽減される傾向にあります。

2015年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン
https://www.jsdt.or.jp/tools/file/download.cgi/1684/2015%E5%B9%B4%E7%89%88%E3%80%8C%E6%85%A2%E6%80%A7%E8%85%8E%E8%87%93%E7%97%85%E6%82%A3%E8%80%85%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%85%8E%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%81%AE%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%80%8D.pdf


余談ですが、漫画で小野塚が読めていないと積ん読になっている書籍の中に上記サイトの運営者の書いた名著「薬局ですぐに役立つ薬の比較と使い分け100」がありましたが、ドラマでは出てきませんでした。薬剤師だけでなく、医師を始め広い範囲の医療従事者に読まれています。

https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758109390/

患者と距離が近すぎるのも問題



患者が求めることとは

新田先生にとって一番つらいことは、病気がもとで「児童に向き合う時間が短くなった結果、児童にとっていい先生でいられなくなったことに関する不安」でした。それを解消するために、たまたまやってきた児童と作り上げたお薬カレンダーのメッセージです。
 一般的に、お薬カレンダーはどうしてもコンプライアンスが乱れがちな高齢者や精神障害者のものになりがちですが、治療に対するモチベーションを上げるためにもこういったメッセージ付きというのは患者によっては有効と考えます。



薬局長勤続20年

 薬局長の病院勤続20年のお祝いです。
同じ場所に20年勤続できるというのは純粋にすばらしことです。薬剤師はひとつのところにいる人はあまり多くないですが、色々学べる環境やライフスタイルによって働き方を変えられる環境であれば長期間勤続も可能です。
しかし、この薬局長も萬津総合病院だけで働いていたとはいえなさそうです。

というのが年齢です。薬局長の時代は4年制だったので、新卒で入っても43歳です。数年別の場所で修行して、萬津総合病院に入職したと思われます。
この薬局長、スタッフに対する傾聴の姿勢はすばらしいです。まずは人の意見を受容してから意見を言うスタイルです。

今回は、このようにまとめてみました。
若者のやりがい搾取の構造を生んでいるのは、経営者だけではなく、その先にある価格の安さと過剰に自身が大切にされることを求める客にも責任があります。現場で働いている人たちが心身共に健康でいられる範囲で働ける社会は、彼らに新しい発想や工夫を考える時間を与え、今回の新田先生のお薬カレンダーのように価格以外のよりよいサービスにつながります。
 お金以外考える発想のない人は、そのような価値をやたらと切り捨てたり、支払うお金以上のものを求めますが、そのような価値観では安全という大前提を失うのではないかと危惧しています。

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