見出し画像

【FC30】 日本の器楽曲の再発見

音楽の事を様々な角度から探求するトーク番組「フルートカフェ」へようこそ。フルート/能管/龍滝とモジュラーなどの電子楽器を用いてオリジナルの音楽を展開するMiyaがにお話します。

日本の曲って何だろう?

ざっくりした質問で恐縮ですが、皆様、日本の曲と言えば何を思い浮かべますか?祭囃子などは間違いなく日本の曲ですが、地域によって笛も旋律も違うので、”日本”という民族単位で共有できる”日本の音楽”というのは、能楽や雅楽になりますね。その中でも”曲”、しかも、歌が入っていない器楽曲となると、なかなか思いつく曲が少ないのではと思います。

実際、私が見聞きする音楽の現場では、日本の曲というと、唱歌の”ふるさと”や”浜辺の歌” あと、坂本九さんの”上を向いて歩こう”などが登場します。でも良く考えると、これらは日本語の歌詞がついた西洋の音楽のシステムで作曲された曲であって、元々日本にあった音楽とは遠い存在。

ジャズなどで日本の曲を演奏します、と言って、これらの曲におしゃれなコードをつけて器楽で演奏したりするシーンをたまに見かけますが、(言いたい事はわかるのですけど)”日本の曲”という観点で見ると、違和感のある状況とも感じていて、今回、このお話をしようと思いました。

日本の器楽曲の認知度

音楽の構造を見るために言葉の世界を離れて器楽曲に注目してみましょう。私も実際に能楽で使われる能管や雅楽で使われる龍笛に取り組むまで知らなかったのですが、日本の器楽曲は一般的な認知度は低いと思います。能管の師匠、一噌幸弘先生と、この話をしていて、「日本の曲って何なんでしょう?」とお伺いしたら、「やはり、中の舞でしょう」との事。実際、中の舞の根幹となる「呂・中・干・干の中」というリフの繰り返しは、歌舞伎や落語の出囃子など、色々な所でバリエーションとして使われていて、確かに日本人が共通認識として持てる曲と言えます。これは横笛の例ですが、おそらく琴や三味線など各楽器ごとに良く耳にする曲があると思います。なんとなく感覚的に知っていても、曲名となるとパッと出てこなかったりするのではないでしょうか。

例えば、横笛の世界でも、私は能管と龍笛、両方稽古に通っていますが、外部から見た時はどちらも同じ日本の笛で、なんとなく繋がっているのだろう、とぼんやり捉えていました。ところが、実際やってみると、思ったほど交流がなく、(もちろんゼロではないですが) 雅楽と能楽、結構はっきりと世界が分かれている事に気がつきました。こうした横の繋がりが見えにくい、という事から、器楽曲という分類よりは、そのジャンルで捉える傾向があるように感じます。

再発見の時代と現代の音楽家の役割


とはいえ、器楽曲という観点で捉えると、とくに他の分野の方と交流する時に面白い事もたくさんあります。日本は明治維新の脱亜入欧から第二次世界大戦までの流れで、自らの文化の流れが一旦途絶えているので仕方のない側面もありますが、今では知らない人のいないバッハも、死後80年は忘れさられ、後に再発見されたように、そろそろ日本の器楽曲も再発見される時が来ているかも知れません。日本の音楽の構造を理解し、器楽曲の面白さを時代に合わせて伝えていく、という事も、私達今の時代の音楽家の役割だと感じています。

師匠がよく、「呂・中・干・干の中」の繰り返しは、ワクワクする、盛り上がるとおっしゃいます。能楽の正式な合奏に参加した事のない立場としては、正直、そこまで共感できないのですが、でも、なんとなくわかるし、いつか体験してみたいし、この旋律のリフは、日本に暮らした事のある身として、誰にも奪う事のできない、大地から得た財産として自分神楽の服を通して学んだ事は伝わる音楽文化、のはどうやって自然とつながりながら、人間として行人間として生きていくかと言う人が集まっている英語と学びました。の中に大切に持っておきたいと思っています。

ハワイのチャンティングと能の謡

器楽は一旦置いておいて、言葉を使う世界に戻りましょう。

先日、ハワイをテーマにしたコンサートの依頼があり、ハワイの事を色々リサーチしました。大地に根ざした音楽・ご先祖様や神様とつながるスピリチュアルな要素が多い印象だったのですが、調べるほどに面白く、豊かな文化だという事がわかりました。そして、ハワイのチャンティングを聞いている内に、これは能の謡に似ているなと思うようになりました。

私は民俗神楽の復興を通して、謡の勉強をしていて、能の謡の稽古に通っています。ちょうど、そのハワイのチャンティングのビデオを見た翌日稽古にいくと、初めてお目にかかる方がいらしていて、なんと、伝統的なハワイのフラの家系の先生で、能の先生と世界の踊り・舞を紹介するイベントで出会い意気投合し、まさに今、新しい作品を一緒に創作しているとの事。能舞台の半分は能、半分はフラで創作する様子は、あまりに美しく、調和して、姿ももはや、ただただ光になっていました。能もフラも自然と繋がりながらどう人間として生きるかという本質的なメッセージがあり、本質を追求すると良い物同士が出会うように出来ているのだなと改めて思いました。能とフラには10月に公演があるそうなので、情報がわかったらお知らせします。

民族としての音感覚

今回、ハワイについてリサーチしてはじめて知ったのですが、1881年ハワイがアメリカに併合される前、ハワイ王朝の存続を模索していた当時のカラカウア国王は、アメリカよりも日本の方が民族として近いと考え、日本の皇族との縁組を通して日本・ハワイ連邦の樹立を画策したそう。日本はアメリカからの反発を恐れ、実現に至りませんでしたが、もしも実現していたら、今頃どんな豊かな文化の交流があっただろう、と想像します。 今それを国と国ではなく、人と人の間でやっているのが、まさに能の稽古で目撃した事ですね。

ハワイの代々土地に伝わる芸能文化が、アメリカ併合の歴史を経てがどのように変化したかというのは、西洋の音楽が入ってきて似た境遇にある日本の伝統芸能に関わるものとして、注目したい所です。

伝統芸能に込められた機能

自然の摂理に逆らわずに行動すると、やりたいと思った事が簡単に実現できるという体験を経験した事のある人は多いと思います。民俗神楽の復興を通して学んだ事は、土地に伝わる音楽には、自然と関わりながら、どう人間として生きるかのヒントが詰まっている事。その本質を追求していくと、能楽や雅楽など伝統的な表現を伝承している方と繋がれるし、そこから世界の同じような本質を追求する音とも繋がる事が出来ます。

侵略による叡智の断絶・誰にも奪われない口伝での継承

逆に、土地の侵略者という立場になったら、その土地に伝わる音楽・伝統文化を破壊する事で、叡智の継承を断ち切り、自分達の思い通りにコントロールする土壌を整える事が出来ます。

さらに、土地を強制的に追われた人達や、自ら開拓するために土地を離れた人の、誰にも奪う事のできない財産として口伝で伝える音には強烈な力があります。ユダヤ人が持つメロディは土地を離れても揺るぎない構造を持つし、琉球から遠い国に入植した人が奏でる三線の音は一音で脳内に故郷の海と大地を出現させます。

ルーツにつながる音

私の音楽のバックボーンとなっているジャズは違う土地同士の音楽が、一度衝突し、ビックバンを起こし、そこから芸術に昇華するという過程を経るという構造があります。ジャズの開拓者であるMary Lou Williamsはジャズを"癒し"の音楽と位置付けていますが、それもこの構造によるものと私は捉えています。

私はジャズという音楽の出現の過程やハイブリッドな構造から、ジャズ的思考をする事で、世界の音楽へつながるパスポートを得る事が出来ると考えています。そして、それフルに活用するためには、自分のルーツにある音がどこにあるのか、意識する事が大切だと感じています。

日本に住んでいるからといって、ルーツの音が日本とは限らないかもしれないし、ハワイにあるかも知れないし、ユダヤ的な音に惹かれるかも知れない。圧倒的に拡張する機能のある電子音楽がルーツの人もいると思います。本質的なものはみなどこかで繋がっているので、思わぬ発見をするのも楽しいし、これがルーツだと思っても、どんどん変化するかも知れません。また、侵略の過程で意図的に破壊され、ルーツが見えにくくなっているものある事も念頭におきたいです。

そして、今、伝統と呼ばれているものも、歴史の中で伝承と革新を繰り返して今に至っている事も忘れてはいけません。復興に関わっている民俗神楽は、能楽の分野のアドバイスを受け、新しい手組みを入れて発展させています。その過程で学んだ事は、伝統芸能と言われる能も、元は全国の民俗芸能との譜のやり取りがあり、それを洗練させて、時代に合った形で伝えていっている事。その音に込められた叡智を伝える事が重要で、伝える方法にはバリエーションがあるという事。

という訳で、現代の音楽は情報量が多く選択肢が多い分、出会いが大変な面もありますが、"日本の音楽って何だろう"と考える事がもしもあったら、日本の伝統的な器楽曲にも興味を持っていただけたら嬉しいです。

笛文化で言えば、能管や龍笛など、日本独特かつ国内ではユニバーサルな笛だけでなく、全国各地には (残念ながら消滅している所も多いですが) その土地独特の音階を持つユニークな民俗芸能で使われる笛があります。この世界と、フルートで使われるドレミ〜の世界、両方を知る事で音楽の幅が広がると感じています。

私も色々な所で、この両方を演奏する機会を設けようと思っています。

Miyaの最新情報 こちらで発信しています。チャンネル登録よろしくお願いします。▶︎


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?