【2020年1月20日号】平和とは肯定し承認すること

 昨年末、漫才日本一を競うM-1グランプリに、かつてない芸風のコンビが登場した。ボケ役のシュウペイとツッコミ役の松陰寺太勇のコンビ「ぺこぱ」である。成績は3位に終わったが、審査員から「新しい漫才」「平和的で気持ちよかった」と高く評価されていた。

 何が新しくて平和的なのかと言うと、従来の漫才では、ボケ役のセリフに対して、ツッコミ役は「何言うてんねん」とか「いい加減にせい」など否定的に返していたが、松陰寺は相方から何を言われても、何をされても、肯定的に返していくのだ。

 タクシー運転手役のシュウペイが「ブーン」と言いながらやってくる。松陰寺が「ヘイ、タクシー」と言うと、タクシーは「ドーン」と松陰寺にぶつかる。松陰寺は「どこ見て運転してんだよ」と言った後、「そう言えてる俺は無事でよかった。無事が何より」と喜ぶ。

 二度目のシーン。再びシュウペイが「ブーン」と言いながらやってくる。「ヘイ、タクシー」と手を挙げている松陰寺に「ドーン」とぶつかる。松陰寺は言う。「二度もぶつかったってことは俺が車道側に立っていたのかもしれない。誰かを責めるのはやめよう」

 言ったことが否定されずに受け止めてもらえると気持ちがいい。審査員が言った「平和的な漫才」とはこういうことなのだろう。

 その逆はどうだろうか。

 作家の寮美千子さんは、その日、明治時代に建てられたレンガ造りの施設で開催された展示会に出掛けた。そこで1枚の美しい水彩画に魅せられた。一つひとつの色が微妙に違う。寮さんは思った。「几帳面すぎる。こんなに細かい神経の持ち主だったら、世間にいた時、さぞかし苦しかったのではないか」

 それは奈良少年刑務所で開催されていた矯正展でのことだった。

ここから先は

1,009字

¥ 300

ためになる、元気がでる、感動する、そんな良質な情報だけを発信しています。 1か月無料で試し読みできます→http://miya-chu.jp/