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アースダイバー 神社編 -プロローグ-


「アースダイバー神社編」も、「精霊の王」も、その前の「精神の考古学」もそうであったが、中沢新一氏は、自らのエピソードを元に、続く300ページ余りの内容に関わる題材を問題提議しながら、これからこの本に釘付けになってしまうであろう叙述をプロローグ冒頭から大展開させる。

冒頭の締まりかたというべきか、
それがとてつもなく面白く、感動している。
(私は滅多に感動などしません)

最近は、神、精神、精霊、神社と、胎生学がマイブームなのか、その神秘を解き明かしたいがための廻り(めぐり)のような気がしてならない。

プロローグ冒頭部分は本書を読んでいただきたいので割愛します。

プロローグ──聖地の起源

光の流動体
 新しい人間型サピエンスは、脳と中枢神経系をつくるニューロンの接続網の変化を通じて生まれている。

サビエンスは脳の中で計算処理をおこなうどのようなモジュール(閉鎖的な回路)にも属していない。このサビエンスはさまざまなモジュールを通過していき、そこでの計算(つまり思考)に参知しながら、そこを出ればたちまち「特性を持たない」力の流動体に戻って、ニューロン網の中を走りだすのである。

神経組織はそれを光の運動として感知するであろう。人類の人間(ホモサピエンス)への進化は、こうして脳と神経組織に出現する「光の流動体」によって引き起こされた。

006

 初期の人間は、真っ暗な洞窟の奥での儀式を通じてこのことを認識するために、最初の「聖地」をつくりだしたのである。真っ暗間の中に長時間こもっていると、脳とつながっている視神経が内部から問起しはじめて、自分から光を放つように体験されるようになる。

この現象は「内部光学(エントオプディック)」として、科学的にも観察されている。またこの現象は人間の心へのサビエンスの出現と重なり合っている

007


大岩への畏怖

洞窟は大岩の内部にくり抜かれた穴であるから、象徴思考の能力を持った人間たちは、それを人間の子供や動物や世界そのものが生まれてくる「産道」や「子宮」と見なした。洞窟は世界を生み出す「大いなる母」の胎内と見なされ、その内部に飛び散る「内部光学」の光によって、「大いなる母」が受胎するという考えも発達した。

007

大岩そのものにたいする畏怖の感覚は、このような洞窟体験に深くつながっている。

大岩の足元に立ったとき、人間は大岩の存在感に包み込まれていくような感覚に襲われるが、森の中にこのような特徴的な大岩を見つけたとき人間は自分たちの始原の時につながる特別な場所を見出し、そこを聖地としたのである。

そのため古い来歴を持つ聖地の多くが、大岩(日本人はそれを「磐座」と呼んだ)を中心とした空間に設けられ、そこで時間の流れを逆行させて始原の時に回帰する神話と儀礼が執行された。

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東欧のキリスト教会では、地下へ続く階段を降りていくと、旧石器時代に人間と熊が同居していたという洞窟遺跡にたどり着いた。西欧でもいくつもの教会が、ケルト民族の聖所であったという大岩をそのまま祭壇にして、そこでミサをおこなっていた。

チベットやブータンでは古代宗教の聖地であったという巨大な磐座の割れ目を広げてできた空間に、仏教の寺院がつくられていた。古い由緒を持つ聖地になればなるほど、上に建てられているのが近世の建物であったとしても、聖地の構造の最下層には、サビエンス=知性の出現を見届けようとしていた初期の人間たちによる洞窟的体験が、礎石として置かれている。

───たとえ地上に建てられた寺院や教会や世界遺産の建物がすべて亡び去ったとしても、聖地の構造を持っている人間の心は、滅びないのである

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ここでは「聖地」として、洞窟などが挙げられている。洞窟の体験が根底に宿っているのかわからないが、真っ暗闇の中でどうすることもできなくなったとき、それが物理的暗闇でなくとも、お先真っ暗の生きるか死ぬかの試行錯誤の思考の際にそれ(ニューロンの接続の変化)は起こる。

そうしたとき、
旅先の見知らぬ土地であっても、
または自宅の居間であっても、

此処が聖地となる」と、私はいつも感じている。


胎生学的象徴として、洞窟や鎮座している磐座から、得体の知れない大いなる感覚に抱かれるような認識は、人間の奥底にも同じような構造が宿っているからで、聖地と呼ばれるのは、人間より遥かに高いが人間に似た神の次元の振動数をカラダが、「そう」感じ、反応するからだと思われる。

その高い振動数のある場所を、人は「聖地」と呼ぶのだろう。

プロローグの最後にサラッと書かれている、

聖地の構造を持っている人間の心は、
滅びないのである。

この言葉にシビれました!


「精霊の王」に続き、「アースダイバー神社編」も、プロローグだけで、結構な満足感です。



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