📝ホントウノジユウ(加筆中)

(2015)
作者、西野みーが
設定を忘れないための!
記録。




自転車が停まる。

波が、駆けぬける。

若い稲穂たちが

鮮やかな陰影を波打たせ
あちらへ寄せ、こちらへ戻り。

気ままな風に任せて、自由に踊っている。

ぼくらが、ジユウ?
ぼくらは、いま、生かされているのさ。

若い稲穂たちは訳知り顔でいうと
さわさわと歌った。

くるりと見渡し、かがみ込む。

君たちは、自由だ。
歌い、踊り、水を飲んで、食事をし、たくさんの友人に囲まれて暮らしている。自由に風をうけ、自由に光を浴び、自由に会話を交わしている。

若い稲穂たちは、遠慮がちに笑った。

ぼくらはね

ジメンに植えこまれているんだよ。

きみはいいね!ジユウに歩ける”アシ”がある

どこへだって、ゆけるのでしょう

そうして すぐに 空を仰いで、
また、さわさわと笑ってみせた。

君は、雲にも愛されてる。
あんなに遠くにいるのに、こんなにもすぐそばにいる。特に晴れた日なんかは、ほら、こんなにも美しく、影を描くじゃない。君は、蝶々にも愛されてる。ひらひら舞いながら、とまっては離れ、離れてはとまり、その影ですら、きみたちから離れない。たくさん歌って、たくさん話して、たくさん愛されて、なんて自由だ。君は、なんて自由なんだろう。

若い稲穂たちは 困ったように揺れた。

ぼくらは、でもね、彼らと共にはゆけない。

わずかにカラダを傾げながら
こちらを見上げる。

だけど、だからこそ、このひとときは素晴らしく、感慨深いものになるのだね。タイセツにしたくなるのだね。おたまじゃくしや、ザリガニや、タニシや、たくさんの昆虫たちが、ぼくらが実り、刈りとられ、最後の役目を果たしにゆくのを見送ってくれる。

それもまた、幸せなこと。それを、ヒトがジユウと呼ぶのなら、きっとぼくらは、ジユウ、なんだね。きみは、ヒトだね。ジユウ、じゃ、ないの?

大きくカラダを傾げながら

若い稲穂たちは
不思議そうにこちらを覗きこんだ。

さわさわさわ。

歌声がやむ。

今度は、ヒトが遠慮がちに笑う番。

自由、って、なんだろうね?

そっと歌いながら 空にいる友人を見あげ

舞い揺れる蝶たちを振り返り

足元を 見まわしながら

若い稲穂たちは 答えた。

【セキニン】
あるいは、【カクゴ】

責任?覚悟?

セキニン。ぼくらは、ヒトに食べてもらうために、おいしくゲンキに育つセキニンがある。農家のおやじさんだって、そこんとこはメイレイできない。

ぼくらが、おいしくなりたい、って、
思わなくっちゃ。

ぼくらはね、おいしくなりたいんだよ。
おいしいって、言ってもらいたいからだ。

それって、ぼくらのこのひとときごと、タイセツに食べてもらえたことと変わらない。ぼくらの思いでごと、タイセツにしてもらえたことと変わらない。ぼくらは、おいしくなるセキニンがある。

そうして、食べてもらったときに、
おいしいって笑ってもらえたら、ぼくらは幸せ。

そうしたら、雲も、蝶々も、カエルやおたまじゃくしも、ザリガニも、タニシも、たくさんの昆虫たちも、風や太陽もね、ああ良かった!って、笑ってくれる。

彼らも幸せ。ぼくらも幸せ。

ぼくらは、幸せになるために、おいしくなるセキニンがある。幸せになるセキニンもある。だから、幸せになるんだーって、はやいうちにハラくくっちゃうんだね、

幸せになるカクゴさ。

ひらひらと舞っていた蝶が

はかったように 彼らにとまった。

ぼくらはね、すごく幸せ。

とうのむかしに ハラくくっちゃったんだ。

だから、きっと、ジユウ。

きみは?

風が

気を利かせて 席をはずそうとする。

若い稲穂たちは目配せをして
ちょっとだけ首をふる。

強い風。

あらゆるものを巻き上げ、包み込み、拭い去る。

若い稲穂たちは
風にのり 波を起こした。

さわさわ。
ざわざわざわ。

雲が切れた。  

強い陽射しが降り注ぎ、美しい影が大きく走りまわって、ヒトの足元まで流れる。大きく長く 長く 長く伸びた自転車とヒトの影が、風にのって揺れている。

若い稲穂たちは優しく揺れた。

ヒトはね、稲穂にはなれない。

そう。
きみは歌える。
きみは踊れる。
水を飲める。食事をできる。

きみにとっての雲や、蝶々や、カエルやおたまじゃくし、ザリガニ、タニシ、たくさんの昆虫たち、風や太陽がいるバショに、根を張ったらいい。

美しいものだけに囲まれるんだ。
そうしたら、きっと、きみも幸せ。
みんなも幸せ。

きみは、ジユウ。
みんなもジユウ。

おや。おや、お天気雨かな。

若い稲穂たちは、揃って空を見上げた。歌い。やがてたくさんの音色まじる合唱となった。沈みかけの太陽のなか。静かに。美しく。優しい響き。

自転車は走る。

あの歌声のように
とても澄んだ軽やかなリズムで。

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