📝新しい土地のヒカリ(加筆中)
作者、西野みーによる
設定を忘れないための!
記録。
☆
☆自作です(2015年)
◇◇【 新しい土地のヒカリ 】◇◇
◇◇◇ ふじおひろみ ◇◇◇
咳き込む。
粉が舞った。
肺が、ひゅうと音を立てた。
視界がかすむ。息をひそめて粉が沈むのを待つ。小さな棚のわきに置かれた鞄に、ちらちらと積もった。
ああ、また、掃除しなけりゃ。
ため息と共に、また粉が舞う。起き上がり、季節外れの粉雪に悪態をついた。蹴りつけた壁からカラカラと破片が散る。
空間一畳ほどの、我が家。
我が家というには少しばかり...いや、”かなり”マニアックなほうだ。だが、これでいてなかなかに住みやすい。なにしろ、自分の好きなときに座り、好きなときに寝転がり、好きなときに水を飲んで、好きなときに食事ができる。コップもあれば、箸もある。トイレだって自由に使えるし、風呂もある。布団はないが、まあ、御愛嬌だ。なるべく静粛に過ごさねばならないこと以外は、スノードームのなかのマスコットの気分も味わえるわけで、そう悪くもない。
水気のない粉雪も落ちついたところで、のそりと立ち上がった。手探りで、剥き出しの鉄筋の先に手をあて、避けた。だいぶ上達したものだ。最初はよくよく頭皮を削っていたのだから。
窓が、立てつけの悪い音を鳴らす。吹きこんだ風が粉雪を降らせた。かたん、と近場で音が鳴る。誰かが寝返りでもうったのだろう。
ぬるい風。
街の喧騒が、遠くもなく、近くもなく、大きくも小さくもなく、流れこんできた。
黒。
星が見えない。
東京にきてから、
星を見られることが本当に少ない。
そこにあるはずの光を探して
視力が暗闇を彷徨う。
目が、見えなくなったのだろうか。
自由を手に入れたはずだった。
憧れつづけた自由。
電車の音。こんな時間でも、街にはヒトがたくさん、たくさん、たくさん、たくさん、たくさん、、、あのネオンの下には、たくさん、いるのに。
空。
光が 見えない。
窓を閉めた。
しん、と。寝返りの主すら消えたようだ。耳が痛くなる。口の中がにがい。鼻がつまる。なにも、見えない。
冷えたコンクリートに背を預け、歌う。小さく、小さく。かすれた音が鳴る。ああ、まだ、生きてる。
小部屋に戻り、鞄から小さなミラーを取り出した。覗きこむ。そこには、一見なんの変哲もない、幸せに生きてこれた世間知らずの若僧が、乾いた粉雪を浴びながら鎮座している。にっ、と、歯をむき出した。うん。まだ、いけるじゃないの。
ミラーを開いたまま
小棚の足元に立てかけ腰をおろす。
たった半畳。
ヒトは、こんな空間に収まってしまう。
たった半畳。
空間80センチ四方。
この周囲には、
果てしなく世界が広がっているらしい。
空間80センチ四方から見える世界。
いまはまだ、”真空”だ。
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