📝奇跡の村 (加筆中)

(2019)たぶん

作者、西野みーが
設定を忘れないための!記録。




—もうちょっと。きっと もうすぐだから。

闇は深い。乾いた風が痛い。空には 光る 砂漠。どっちから来たのかすら わからなくなるほどの。どこへ 向かいたかったのかすら わからなくなるほどの。広大な 荒野。生き物の気配すら 感じない。危険が少ない安心か 心許ない不安か。

—起きて。

村に伝わる昔話だった。なんでも 願い事を叶えてくれるカミサマがいるんだって。カミサマは 世界中のお願いを聞いているから とても忙しいけれど、でも お気に入りの場所には よく 来るんだって。カミサマがくると、シルシが 現れるんだって。

—みんな、起きてよ...

それが なにかは わからない。だけど、すごく 特別に光るから、絶対にわかるんだって。ああ、これだ。って、わかるんだって。色も形も どこにあるかも わからない。だけど、世界中のひとが それを欲しがっていて、たくさんのひとが 旅に出た。だけど、帰ってきたひとは みんな それを見つけられなかったひとで、帰ってこなかったひとは、どうだったのか わからない。

ただ、ひとりだけ、明確に、願いを叶えたひとがいた。それが、村の昔話だ。

昔 村に住んでいた ある女の子が、病気のお母さんのために ずいぶん遠くまで お水を汲みに行っていた。貧しくて お水を汲めるものは 小さな柄杓しかなくて だけど 女の子は 何度も 何度も 遠くまで お水を汲みに行ったんだって。

そうしたらね、ある日、あたりがパァっと輝いたかと思うと、女の子が持っていた柄杓が キラキラ光って、たくさんの きれいなお水が 湧きでてきたんだ。あまりに きれいだから 女の子は そのお水に 口をつけた。

いつもは 少しでも たくさん お母さんにお水を飲ませてあげたいからって、自分は我慢して、お母さんに勧められても 『さっき飲んだから いらない』って 口をつけないものだから、女の子は 本当は のどがカラカラだった。

そのキラキラした柄杓のお水は、あまりに おいしくて たくさん 飲んでしまったけれど、ずっと、ずっと 湧きでてくる。

大喜びで 女の子は 家へ走って帰って、お母さんに キラキラした柄杓の お水を 飲ませてあげた。すると たちまち お母さんの病気は治ったんだって。

きっと 幸せに暮らしたに違いない。

—きっと、もう すぐ...

『あれが 北斗七星か』

満天の夜空でも 見分けがつく。特別、な 証拠だ。

カミサマは ぼくに気づいてくれるだろうか。光る なにかは なんだろう。昔話の柄杓が光っていただけで、カミサマのシルシが すべて光っているものだろうか。だけど オトナは みんな言う。カミサマのシルシは 特別だから、すぐにわかるし、とても光って見えるんだ、って。もう、それが 伝説の一部なんだ。

この昔話は世界中で有名で、これを知った人々は みな 各々に 柄杓を持って 出かけたそうだ。だけど 奇跡は起こらなかった。

ぼくは 思った。

女の子は 本当に心から お水が欲しかったんだろうって。お母さんに お水を飲ませてあげたかったんだろうって。お水を欲していない人々が、柄杓を持っていても、奇跡が起こるとは 思えない。

ぼくの願いは 奇跡に 値するだろうか。

チカ。

視界が 揺らいだ。気がした。違う。明暗が 奇妙に揺れているんだ。月?違う。そんな 明かりじゃない。ゆらゆらと たゆたうように あまりに ゆったりと。柔らかに ゆるやかに 景色を 取り戻してゆく 暗闇。

見たくない。

咄嗟に 思った。だけど 世界は その姿を晒してゆく。淡く 浮かぶ 影。暗闇のなかにいれば 見えなかった 影が 浮き彫りになる。

荒れ果てた大地。枯れた水源。崩れ去った村。腐りかけた家畜。血を流し 涙を枯らし 折り重なるように 倒れる 人 人 人。うめき 這いつくばりながら ぬるぬると 蠢き それでも 死ぬことも ままならず、この姿の果てに 尚 争うことを 辞められずにいる。あちらこちらから 聞こえる声ともつかぬ 愚音は 共通の言語とは 思えないほどに 意味を伝えていなかった。

起きてよ。みんな...。一緒に 奇跡の星を探そうって 約束したじゃないか...きっと もうすぐなんだ もう あと 少しなんだよ... ...

言葉は もはや 届かない。これは病だろうか。それとも 腐敗なのだろうか。目が覚めたら すべてが夢で 平和で幸せな毎日なのだろうか。

カミサマ。

ぼくは。ぼくたちは。まだ、生きる価値は ありますか。彼らは、まだ、生きる価値は ありますか。カミサマは、見限ったならば 大洪水で地球を洗うのでしたね。では、まだ、ぼくらに 可能性は ありますか。カミサマ...

ピチャピチャと音がする。

さっきから ずっと 鳴っていたんだ。だけど さっきよりも もっと ゆっくり だんだん ゆっくりになっていく 音。あたたかさが 次第に消え 、もう ほとんど 冷たい。ぼくが 殺した ぼくの大切なものが 転がってる。

ねえ。カミサマ。ぼくは なにをしたら 良かったんだろう。なにが 正しいかなんか わからないよね。この村は もう だめだろうか。カミサマは どう おもう...?

ぼくの 灯も もう 時間切れかもしれない。

ずっと ずっと 流れたままなんだ。

ぼくの 心から ずっと 血が。

カミサマ。もしも カミサマが 本当にいるなら ぼくは 最後に 奇跡に かけてみたいと 思ったんだ。カミサマ。お願い。彼らに。ぼくに。世界に。

心を ください。

あたたかく 優しく 慈しみに満ちた 心を ください。

幸せを 与え合える 柔らかな しなやかな 心を。

もしも 生まれ変われたなら ぼくは ...

.....

.....

ひととき。世界から 影が 無くなった。強烈な光が差したからだ。無数の光の粒が 降り注いだ。雨のように激しく けれど 柔らかく。まるで 小さな 砂糖菓子のように 色とりどりに 淡く 甘く 光を放っていた。

大地に。水源に。動物たちに。村々に。世界に。

人々に。

光の粒は 落ち 溶けて 沁みてゆく。

闇を覆っていた うめき声は止み 地を這う音も 消えた。あたたかい風が ひとつ 空へ向かい 吹き抜けた。満天の光の砂漠が 広がり、北斗七星が 浮かんでいる。

『おにいちゃん、おきて!』

『どうした こんなところで寝こけて。イタズラ疲れかぁ?』

『ここんとこ ずーっと 星が見たいってぇ、夜更かししてやがんだよ、こいつ』

『ああ、あれだろ?』

『北斗七星』

目を開けると ドアップで 顔 顔 顔。

・・・・・みんな 生きてる。ぼくも...

あたりを見渡しても 幸せに暮らしていたころの村だ。井戸も家も家畜も もとのまま。誰ひとり、血も流れていない。きゅ。と 心臓が痛んだ。生暖かい温度が 手に残る。感触が 伝えていた。...夢じゃ ない。

『いいかげん、寝ろよぉ?ガキが そう毎晩毎晩 夜更かしするもんじゃねぇぞぉ』

あたたかい笑い声 やわらかな笑顔

—それは 希望だ。

『ねえ おにいちゃん。わたしに内緒で おやつ 食べたでしょぉ?落ちてたよぉ、コレ。こんどは ミィにも ちょうだい!にゃはははは』

走って 家に入っていく姿を見送りながら、手のひらに見たものは、淡く 甘く 光る 砂糖菓子.....。

これが ぼくの 柄杓の水...だ。

奇跡は 起きたんだ。

生まれ変わったら。そう、ぼくは あのとき 一度死んだ。死んだのと 同じ。もしかしたら 本当に 死んだのかもしれない。

それとも あれ自体が 世界の闇、内側、見えていない ぼくらの心だったかもしれない。成れの果てが 生まれ変わる前の、ぼくらの村だ。

どうあれ、いまの ぼくには 未来が ある。村も みんなも まだ 未来が ある。未来とは 時間だ。どう、使うか だ。

やっぱり カミサマは お気に入りの場所には よく来るんだな。この村に 生まれて よかった。そうでなかったら、昔話すら 知らないまま、きっと 奇跡に出会うこともなく、闇に飲まれて 朽ち果てていたかもしれないのだから。

FIN.

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