【感想】『ハンサード』(ナショナル・シアター・ライブ)

 先日、イギリスの傑作演劇を映画仕立てで観られるNTLive(ナショナル・シアター・ライブ)シリーズの『ハンサード』を観てきました。
 https://www.ntlive.jp/hansard
 
 ハンサード(Hansard)を辞書で調べると、英国議会の議事録のことです。人名の由来はかつてこの議事録を出版していた出版業者だそうです。

 舞台は1988年の設定で、はじめにサッチャー首相が出てくる当時のテレビニュースの映像から始まります。そこで観客が時代背景を理解しやすくしておいて、お芝居がはじまりますq
 久しぶりに自宅に帰ってきた夫は、庭が荒れ果てているのに驚き嘆きます。妻はガウンのままで出迎えて、嫌味を言います。
 サッチャー首相に近い地位にある政治家の夫と、その夫とは政治的信条が反対の立ち位置にある妻という設定です。
 家をひとつの国に見立てて、政治的信条の対立を夫婦の対立に置き換えて表現したいのか、それとも、先日のNTLive作品の『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』のように、夫婦がずっと家の中で口喧嘩していくうちに秘密が暴かれる話なのか、と思いながら、どこへ飛んで行くのか分からないやりとりを眺めていて、O・ヘンリーの「賢者の贈り物」を連想しました。
 たがいにがっちり組み合った「思いやり」の話ともいえます。
 見終えて映画館を出て歩いているときに「あ、あのセリフはあれとつながっていたんだ」とつながってきたりします。
 保守と革新の対話かと思っていると、政治信条よりも深いところで「自分も家族も決して少数派にならない」と確信している人たちの話でもあります。
 まだ整理つかないのでこの辺で。 
 この時期のイギリスの政治状況を理解できていたら、きっと理解が深まりもっと楽しめるのだろうけれど、私のようによく分からない人でも、イギリス人ならではのきつい冗談で笑って観られました。夫婦喧嘩なのにね。

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