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祈りの雨『青ブラ文学部』

陸奥の地は完全に干涸びていた

もうずいぶん雨が降っていない
作物が育つことはなく、追い打ちを掛けるように大規模な飢饉が襲った

それは陸奥の地だけではなく、被害の大小はあっても、日出ずる国全体に及ぶ危機であれば、朝廷も陸奥だけを優遇するわけにはいかなかった

陸奥の地は路傍に転々と屍が横たわるようになり、死者の発する匂いを含め凄惨な様相を呈すようになった


どこからも救いの手がないと知った陸奥の人々は土着の神に祈るしか手がなくなってしまった

神に祈りを捧げることになった巫女は、注連縄の飾られた大きな岩の前に祭壇を拵え、松明を焚き一昼夜休むことなく祈り続けることとなる


ひふみよいむなやこと、とこやなむいよみふひ
カケマクモ カシコキソノオオカミノ・・・・・アマツノリトノフトリゴトヲノレ
ひふみよいむなやこと、もちろらねしきるゆい、つわぬそをたはくめ、かうおえにさりへて、のますあせえほれけ、い
ふるべゆらゆら、ゆらゆらとふるべ ふるべゆらゆら、ゆらゆらとふるべ


一昼夜祈り続けても変化はなかった


ほんのわずかの救いに縋るように、他の巫女や侍、村人や女子供までが同じように祈りだした
それはあたかも大合唱の如く声が近郷に響き渡った


だが空は青いままだった


村人総出の祈りも通じないのかと思われたその時
注連縄の飾られた大岩の上に一筋の稲光が刺さった
そしてぽつりぽつりと雨粒が落ちだし、とうとう滝のような雨となった
村人たちは全身で雨を受け、喜びを噛み締めた


雨が降ったからといえど、すぐに飢饉が収まるわけではなく、その年は相当の餓死者が出たが、次の年は土着の神の気遣いか、陸奥の地だけは飢饉を免れただけでなく、豊作にまで回復することができた

陸奥の地に暮らす人々は土着の神の恩恵を受けたことで更なる信仰心を持ち、神を敬い感謝するようになった


何もできなかった朝廷は陸奥の地が豊作なのを良いことに、未だ飢饉に喘ぐ他の地方を助けるように指示したのは周知のこと
また陸奥の地に暮らす人々はそれに応えようと懸命になったことも間違いない


昔々、また大和に都があった頃、幾度もの飢饉に見舞われた我が国の歴史の一幕より

お題「祈りの雨」に参加させていただきます
山根さま よろしくお願いいたします


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