転職検討のフレームワークを考えてみた。
みなさんこんにちは。初めてnoteを書きます。
簡単に自己紹介させていただきますと、私は大学を卒業してから総務省で約5年ほど官僚として働き、その後転職して、現在はサイボウズ株式会社で働いています。
普段こういう記事投稿はあまりしないのですが、なぜ、今回標題のような記事を書くことにしたのかをまず説明し、標題の中身に移ります。
結論を先にお伝えしてしまいますが、転職検討にあたって重要なことは、
「自分自身の転職の成功条件を定義すること」
に尽きると思っています。
0 記事投稿の背景と目的 〜転職検討は未開の海?〜
転職して2年ほど経過しましたが、現役官僚の方から民間企業の方まで、また面識ある方からない方まで、色んな方から転職相談を受けることがありました。
ただ、お話を伺っていると、共通して感じるのが、相談者の方が「転職検討を未開の海だと思い込んで右往左往してしまっている」ことです。
私自身も転職するとき似たような状況にありました。相談者の方は、当然、転職未経験なわけですし、身近に相談できる人がいるとも限りません。また、転職を検討する状況というのは、メンタルや時間に余裕がないタイミングであることも多く、普段は冷静に思考できる人でも同じような状況に陥ってしまうこともあるでしょう。
この記事の目的としては、そんな性質を抱えた転職検討者(特に転職未経験者)が冷静に転職検討に向き合えるよう、転職を考える際のフレームワークとなるような思考方法をご提示することです。読み進めていただければわかると思いますが、そんな難しい話ではなく、ビジネスにおける問題解決の思考方法そのものです。
あと、この記事は、転職検討者に転職そのものを手放しに推奨するものでは決してありませんが、転職検討は推奨します。これは、検討の結果、最終的に現職にとどまる選択肢を取ったとしても、より納得感を持って現職と向き合うことが可能になるはずだからです。(詳しくは3でも触れます。)
したがって、そこまで転職することを本格的に考えていない方にとっても、現職と向き合うためのツールとしてお役立ていただけると考えています。
最後に、私自身の以下のような経験の偏りと思考力の低さにより、フレームワークの汎用性・適切性という点で不十分な可能性が大いにあります。何卒ご容赦ください。
・転職ルートが官僚→民間企業という一般的には特殊な部類であること
・文系職種のみ経験していること
1【プロセス①】 理想と現状のギャップを言語化する
だいたい転職を検討するきっかけは、「ああ、転職したい・・・」という自分の心の声が聞こえてきたとき、という方が多いかと思います。私もそうでした。
その心の声というのは、現職に何も問題が無いならば聞こえてくることは無いはずです。そこには、「本来こうありたい」(理想)と「でも、実際はこうだ」(現状)の乖離(ギャップ)があるはずなのです。
例えば、分かり易い例を挙げると、大好きな趣味があるのに、平日が毎日終電帰りで、趣味に時間を割くことができないという方(Aさん)の場合、以下のような状態にあると言えます。
理想:平日も趣味を楽しんでいる
現状:平日は毎日終電帰り
ギャップ:平日に趣味の時間を確保したいのにできていない
上記の例で整理したように、「転職したい」と思う原因であるモヤモヤ感の正体を暴いていく(言語化する)ことが、転職検討の非常に大切な第1歩です。
もちろん、このギャップというのは1つの要素だけとは限らず、むしろ1つじゃない(ギャップ「群」である)ことの方が多いでしょう。また、最初から自分が明確に認識できているとも限りません。仕事をする中で、モヤモヤ感じることがあれば、それを見逃さずメモに残し、モヤモヤの正体を探求するようにすると、少しずつ可視化されていくはずです。
非常に骨が折れる作業ではありますが、これが後にご説明する「自分自身の転職の成功条件を定義する」という肝となる作業に直結するので、是非とも丁寧に行っていただきたいです。
2【プロセス②】ギャップ群の優先順位付けをする
プロセス①を通じて、各要素(労働時間、給料、人間関係など)について解決したいギャップ群の言語化・リストアップができたら、次は、そのギャップがどれだけ自分にとって深刻なものなのか(解決の重要性が高いか)の優先順位付けをします。
肝心な優先順位の付け方ですが、これは、完全に各人の自由であり、正解はありません。自分は仕事に何を求めるのか、自分の人生において仕事はどういう位置付けのものなのか、といった仕事に対する自分の価値観に基づいて決まるからです。「正解はありません」と言われると不安に思う方もいるかもしれないですが、逆に言えば「自分にとってはこれが正解だ」と言ったものがその人にとっての正解なのです。
優先順位付けが終わったら、最後に、上位のギャップの中で、短期的(向こう1〜2年程度)に必ず解決してほしいものがあれば、チェックしておきましょう。これが、後に説明する「自分自身の転職の成功条件を定義する」における成功条件(must条件)となります。
3【プロセス③】ギャップ群のうち最適な解決方法が「転職」であるものだけ残す
プロセス②を通して各ギャップの深刻度を可視化できたと思いますが、深刻度が高いものがたくさんあったからと言って、すぐ「転職しよう!」とはなりません。なぜなら、各ギャップについて、転職が最適な解決方法とは限らず、内容によっては現職にとどまったままでも解決可能なものもあり得るからです。次に行うべき作業は、ギャップ群のうち最適な解決方法が「転職」であるものの選別です。
例えば、「上司との相性が悪い」というギャップがあった場合、確かに転職したら解決する可能性もあると思いますが、人間関係に由来する問題は組織で働く以上避け難いものなので、転職先でも同じようなギャップが生じる可能性は大いにあります。また、現職にとどまったままでも、上司か自分のいずれかが部署異動するなどの手段により解決するでしょうから、現職でも解決可能性はあるでしょう。(もちろん、各組織の人事異動ルール、転職検討者のパーソナリティ等によって状況は変わります。そのため、人間関係に由来するギャップ全てについて、転職による解決が不適切であるとは一概に言えません。)
一方で、例えば「現職の事業内容には無い仕事がしたいのにできていない」というギャップがあった場合、通常は、現職にとどまる以上解決可能性は無いと思いますので、転職が最適な解決方法となるはずです。
ここで「唯一」ではなく「最適な」解決方法と言っているのは、現職において解決可能性は一応あっても、その可能性が著しく低い場合や解決に多大なコストが必要な場合もあり、そういった場合も転職という選択肢は残るからです。
例えば、「労働時間が長い」というギャップについて、自分自身の作業の効率化だけでは限界があり、会社または業界全体として効率化に向けた取組が必要な場合です。自分が旗振り役になって解決に向けて会社や業界を動かしていく、という選択肢もなくはないですが、解決が保証されない上に自分が負担する労力も多大になり得ます。こういった場合には、「唯一」ではないですが「最適な」解決方法として転職は検討に値すると思います。
もし、プロセス③の選別を通じて、残ったギャップが0になった場合は、現段階で転職は不要ということになります。ただ、これまでの作業は決して無駄ではなく、「なぜ現職にとどまるのか」という問いに対して納得感を持って答えることができるようになっているはずです。また、ギャップの解決に向けて取り組むべき課題も見えるようになってきているはずです。このような恩恵があることが、私が転職検討を幅広い人に推奨する理由です。
4【プロセス④】自分自身の転職の成功条件を定義する
プロセス内容の説明に入る前に、ちょっと寄り道させてください。
転職の成功とは何でしょうか。
給料が上がることでしょうか。上位のポジジョンに上がることでしょうか。有名な企業に入社できることでしょうか。
答えは全てNOです。より厳密に言えば、一般化できる転職の成功条件というものはない、ということです。(「幸福になること」といった成功条件の設定であれば一般化できそうではありますが、抽象的過ぎて条件としては機能しないと思います。)
例えば、1で登場したAさんの場合、転職先で給料が上がったとしても、平日また終電帰りが続いたら、「平日に趣味の時間を確保したいのにできていない」というギャップは埋まらないままで、モヤモヤは続くわけです。給料が上がることは一般的にはプラスなことですが、Aさんにとっては、平日の趣味の時間を確保することの方が大事なわけですね。
では、転職の成功をどう考えればいいかというと、転職の成功とは「転職検討者自身が定義した成功条件が満たされること」だと私は考えます。したがって、事前に成功条件を自分で定義しない限り、その転職には成功も失敗もありません。
もうみなさんもお気づきかと思いますが、これまでのプロセス③までの作業は、この自分オリジナルの成功条件を定義するためのプロセスでした。
ただ、プロセス③までに選別されたギャップ全てを解決できればいいですが、数が多い場合、一度に全てを解決するのは困難なことも想定されます。その場合は、プロセス②でチェックしていただいた短期的(向こう1〜2年程度)に必ず解決してほしいものをmust条件として、残りをwant条件と整理すればいいと思います。
5【プロセス⑤】リスクを可能な限り認識し、コントロールする
フレームワークとしては、プロセス④までが中心ですが、最後に転職によるリスクについても触れます。
当然ながら、転職にはリスクもあります。リスクの分類としては、このフレームワークに基づけば大まかに以下のようなものかと思います。
a.転職しても成功条件を満たせない
b.転職先で現職では理想と現状のギャップが生じていなかった要素について新たにギャップが顕在化する
c.経営破綻など想定外なトラブルが起きる
cについては、可能な範囲で転職候補先の企業の経営状況などを調べて、あとは時の運に任せるしかありません。ただ、aとbについては、リスクを0にはできなくても、プロセス④までの作業を可能な限り精緻に行うとともに、転職候補先の情報を集める(社員の話を聞いたり、OpenWorkやカイシャの評判などの口コミサイトを見る)ことを通して、多少のコントロールは可能です。
最後に、上記bのうち、一部の方、特に現役官僚の方には特に重要な考慮要素を挙げます。それは「現職でしかできないことに取り組めなくなる」です。
例えば、公共政策の立案・執行は公務員がほぼ独占的に行っているものですので、当然、民間企業に転職したら直接関われなくなります。もちろん、今はいわゆる「出戻り」が許されるようにもなってきているので、一度民間企業に転職して、また省庁に戻るということも可能かもしれないですが、出戻りが保証されているわけではありません。
現役官僚の方や特殊な業務を行う組織にいる方としては、まず向き合わなければならない重要な要素だと思います。
6【最終プロセス】勢いで決める
完全にリスクを無くせない以上、転職をするかしないかは、最終的には、「成功条件を満たし得ること(=現職のギャップを解決し得ること)」と転職のリスクを天秤にかけて、勢いで決めるしかありません。(身も蓋もないと言われるかもしれませんが、こればっかりは仕方ないです。)
ただ、プロセス⑤までの作業を通じて、リスクはある程度コントロールされているはずです。何より成功条件を定義したことで、その転職が成功だったのか失敗だったのか、失敗なら検討上の問題点は何だったのか、を事後的に評価・反省することができるようになります。これは、その後のキャリアにとって大きなプラスになるはずです。
もちろん、リスク側に天秤を倒し、現職にとどまる決断をしたとしても、これまでの作業はきっとプラスになるはずです。(3に記載の通りです。)
7 最後に 〜ポジティブな転職とネガティブな転職〜
最後に、転職系の記事でよく見る「ポジティブな(理由の)転職はいいが、ネガティブな(理由の)転職はよくない」という言説について、私の考えを記載して終わりたいと思います。
結論から言えば、転職にポジティブもネガティブもなく、あるのは、成功条件の定義の精度が高いか低いかだと考えています。
一般的に、ポジティブな理由としては、「新しく別の仕事がしたいから」などが、ネガティブな理由としては、「職場の人間関係が悪いから」などが挙げられています。ですが、どちらも理想と現状にギャップがあるという構造は変わらず、違いとしては前者は解決方法として転職が最適ですが、後者はそうではなかったということ。要すれば、後者は転職の成功条件の定義としては不適切(不十分)ということです。
最後にこの言説に触れたのは、もし、「現職から逃げるようなネガティブな転職はよくない」と思って転職できずにいる人がいるなら、それは誤解であると訂正したかったのです。
転職検討は「ああ、転職したい・・・」という心の声が聞こえてきた全ての人に開かれています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。