エリー・ウィリアムズ『嘘つきのための辞書』

「マウントウィーゼル」とは、辞書の著作権を守るためにわざと辞書に紛れ込ませた架空の項目、フェイク語のこと。
『嘘つきのための辞書』は、マウントウィーゼルをめぐって現代と19世紀のロンドンを行き来する、言葉と愛の物語だ。

現代パートの主人公は、極小辞書出版社スワンズビー社でインターンをしているマロリー。辞書の結婚の定義を「男女間の結びつき」から「「二人の人間の結びつき」へと変更したからか、マロリーのもとには毎日脅迫電話がかかってきており、自身もレズビアンであるマロリーは、不安な日々を過ごしている。
ある日、オーナー兼編集者のデイヴィッドから、スワンズビ―社の辞書には他の辞書に比べて大量のマウントウィーゼルが紛れ込んでいると聞かされたマロリーは、恋人のピップとともに、大量のフェイク語を見つけ出す仕事にとりかかる。
なぜ、スワンズビーの辞書にだけ、こんなにフェイク語があるのか?

それらのフェイク語を作った人物が、19世紀パートの主人公であるウィンスワースだ。19世紀のスワンズビー社では100人以上の辞書編纂者たちが働いていた。そのなかでウィンスワースは影が薄く、話しかけても誰からも気づいてもらえなかったりする。だけど、ウィンスワースの言葉オタクっぷりは他の誰にも負けてなくて、たとえば彼のつくったフェイク語のひとつがコレ。

cassiculation(名) 透き通った見えないクモの巣に突っ込んでしまったときの感覚。

ウィンスワースは、名付けえられない感覚や動作に、遊び心満載なフェイク語を与えていく。

マロリーやピップとともに、ウィンスワースのつくったフェイク語を追っていくだけで充分面白いのだけど、ラブストーリーとしても滅法おもしろい。

マロリーとピップは、フェイク語を探していくなかで、いくつもの定義できない感情を発見していく。

「それで気づいた。「ピップを守るためにすること」を表す語がないってことに。」

一方、ウィンスワースは同僚が主催するパーティーに参加するも馴染めず、歩きながら床に文字を描いて時間をやる過ごしている(こういうとことが大好き)ところでソフィアと出会う。この二人の出会いのシーンと、その後のペリカンを介した再会のシーンは視覚的に美しく、コミカルで、しぼりたてのロマンチック。

love(動)粉砂糖と、癒やし効果のある紅茶の葉、もしくは、当たり障りのない小さな嘘を共有することで、虚空を満たすこと

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