中村佑子『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』

幼いころから精神疾患をかかえる母のケアをしてきた経験をもつ著者の中村佑子が、ヤングケアラー当事者への取材を行っていくなかで「わたし」の境界がゆらいでいくケア的主体を発見していく。

一章では自身の経験を語り、二章では家族をケアしてきた経験を持つ方への取材を行う。しかしその後、取材依頼を断られ原稿がお蔵入りになり、中村さんの筆は止まってしまう。
家族をケアしてきた側は自分を当事者とおもっていないのではないか? 病気を抱える家族こそが当事者であって「私は当事者ではない」のではないか? その感覚は、中村さん自身も感じ続けきたことだ。

その後、執筆を再開した中村さんは、自分自身のこれまでの記憶を遡りはじめる。

「ヤングケアラー」という言葉への戸惑い、個人的な領域をすべて社会化することへの戸惑い、家族と私の境界が曖昧になることが「依存」や「犠牲」という言葉にすぐ回収されてしまうことへの戸惑い。

戸惑い、逡巡する思考の過程をそのまま記していくセルフドキュメント

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