スティーヴン・キング『ビリー・サマーズ』
殺し屋ビリー・サマーズの最後の仕事は、収監されているターゲットが移送されるまでの間、小説家のフリをしてアメリカ南部の町に潜伏することだった。
しかし、フリのはずだった小説家という仕事にビリーは次第にのめり込み始め……。
大好きな漫画『ファブル』みたいだ!とおもって読み始めたけど、ビリーの状況は『ファブル』よりもさらにややこしい。
ビリーはいくつもの人格を演じる。
まずは、小説家としてご近所付き合いにも勤しむデイヴィッド・ロックリッジとしての人格。
依頼主の言動に疑問をもったビリーが、彼にバレないようつくったIT技術者ドルトン・スミスとしての人格。
さらに殺し屋としてのビリーも、周囲を欺くためあえて"お馬鹿なおいら"を演じているし、ビリーが書く自伝的小説の主人公ベンジー・コンプソンも作中作として登場する。
つまり、ビリーは最初からずっと自分を喪失していて、だからこれは、他者との出会いや「書く」ことを通して、失った自分を取り戻すまでの物語。
中盤の、物語のトーンがガラッと変わるあたりで「うおおお!」と声をだしてしまった。
メタフィクションで、犯罪小説で、ビルドゥングスロマンで、ロードノベルで、家族小説。
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