宝の持ち腐れ
2018年4月14日日経新聞夕刊に掲載されたものです。
先日、新潟県かぐらスキー場のスキーイベントに参加した。宿泊先は、山の中腹にある和田小屋という名の山小屋である。一日スキーを楽しんでから、ここでスキー場の営業部長である中沢稔氏と雑談をしていたところ、中沢氏の携帯電話に一つの連絡が届いた。スキー場の外を滑る人、いわゆるバックカントリースキーやーの男性2人が道に迷っているというのだ。
近年はバックカントリーへの関心が高まり、かぐらスキー場でもコース外を滑るスキーヤー、スノーボーダーが増えている。そのため中沢氏はスキー場からコース外へと安全に行き来できるようにゲートを設けている。
このゲートは、雪崩の際に電子信号を発信するビーコンをスキーヤーやスノーボーダーが携帯しているかどうかをチェックする〝関所〟であり、ここを通るときには登山届けを出すことを促している。こうした取り組みにもかかわらず事故を完全になくすことはできない。何かあるたびにスキー場は警察や救助隊と連携を取り、中沢氏も捜索に当たることが多いという。
男性2人は携帯電話でスキー場に連絡して、救助要請を出した。聞けば彼らはGPS機器を所持していながら、使い方がわからず自分の緯度経度を確認できないという。
日没が間近であったため、場所が特定できなくては捜索にいけないし、ヘリコプターも飛ばせない。幸いその夜の天候は安定していた。中沢氏は雪洞を掘って一晩とどまるように男性2人に伝え、あわせて警察にも連絡を取るように付け加えた。
翌日、携帯電話の発信をもとに2人の居場所を確認、朝から新潟県警のヘリが飛んで捜索にあたり、無事に2人を救助した。
雪崩などにそなえて、バックカントリーの愛好家は電子信号によって所在を確認できるビーコンのほかに、近くで雪に埋まった人を探るプローブ、救出用のシャベルの携帯を求められている。しかし、これらはあくまで救助の道具にすぎず、安全を保障するものではない。用途と操作方法に精通し、定期的に復習しなければいけないのだ。
道具は、その特性を理解した人が手にして初めて役に立つ。今回のようにGPSの使い方がわからないというのであれば、道具の所持が偽りの安心感を与え、かえって事故を引き起こすことになりかねない。
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