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宮之浦岳、記録も楽しむ

2016年6月18日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、友人たちと日本南端の百名山、屋久島の宮之浦岳に登った。屋久島はほぼ円形に近く面積が504平方キロ㍍、その90%が森林と山岳地帯だ。その島の中心に宮之浦岳はある。
 僕はこれまで屋久島縦走を含め3度、宮之浦岳に登った。毎回日の出前にスタートするが、最後は日が暮れる。宮之浦岳は〝長い〟という印象が強い。
 山の特徴を知るために今回はセイコーから新発売されたプロスペック・アルピニストS830を持参した。この時計は登山用時計の新作で、これまでの基本機能(登行スピードや積算上昇・下降高度)に加えて時計でとった登山記録を近距離無線通信「ブルートゥース」でスマートフォンに移し、記録することが可能。

 今回、淀川登山口からの往復を選んだ。屋久島の全面積の約2割は自然遺産。このルート上のほとんどが自然遺産に含まれ、すばらしい景色がいたるところに見られる。緑のコケに覆われた森林地帯、その樹々の間に屋久島の代名詞とも言える樹齢千年を超えるような荘厳な屋久杉が立っている。そして日本最南端に位置するという高層湿原、小花之江河では透明感のある水の流れにミズゴケが揺れていた。森林限界を超えた高地ではシャクナゲが色とりどりに咲き、最後は全員頂上に立つと、祝福するように日が差してきた。
 さて、こうして楽しんで登ったせいか淀川登山口に戻ったのは午後7時すぎ。今回も日が暮れる14時間に及ぶ長時間登山であった。

 宮之浦岳まで細かいアップダウンが無数にある。登山口から頂上までの標高差だけ見ると560㍍ほど。しかし時計の記録は積算上昇高度が1149㍍とある。積算上昇高度は登山時の細かい登りを足していく値で、この数値は富士山五合目から登って降りてくるのに近い。肉体的には富士山日帰りに相当する。
 景色を楽しみながら登ったその登行スピードは平均毎時210㍍、通常コースタイムは毎時300㍍で計算されているので、本来のコースタイムが10時間のところ1.5倍近い14時間になってしまったのも納得だ。今後の登山計画に役立てよう。データをスマホに転送すると、登った行程がグラフになって見える。苦労した分、一つ一つの起伏がいとおしい。

 客観的な時計の記録で普段は気がつかない自分たちの登山が見えてくる。その日見た景色と仲間の思い出とともに今後の登山につなげていこう。

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