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障がい者も一緒にスキー

2019年3月23日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 中岡亜希さんと出会ったのは10年前だった。彼女は遠位型ミオパチーという難病を患っていた。手足の先など、体の中心と離れた箇所から筋力が失われるという筋疾患である。
 当時、塾の先生をしていた彼女には、生徒たちと一緒に富士山に登りたいという願いがあり、僕がそのお手伝いをしたのが彼女と知り合うきっかけだった。

 当時から明るく、積極的な人だった。自分が富士山に登るために「ヒッポ(HIPPO)」というフランス製のアウトドア用車いすを見つけ、やがて障害者たちの可能性を広げるためにこれを輸入し、あわせて指導者育成事業も始めた。ヒッポは、仕様を変えれば海、山、砂浜と言った幅広い行楽に役立つのである。
 やがて中岡さんは一般社団法人「ata Alliance」を設立した。障がい者とその家族や友人が一緒にアウトドアを楽しむための環境づくり、技術講習などの事業を、大学や行政と連携して行っている。

 その彼女が現在、取り扱っているのがやはりフランス製の「デュアルスキー」。障がい者のための椅子付きのスキーである。スキーヤーである僕はぜひとも実物を見てみたかった。そこで中岡さんにお願いし、先日苗場で行われた子供たちのアルペンスキー大会「ナスターレース」で、前走という形でデモンストレーションをしてもらった。
 障がい者がデュアルスキーに座り、すぐ後ろのパイロット(アシストスキーヤー)が両手で押すようにして操作する。まさに雪上の車いすだ。自由自在のスキー操作が驚きだった。中岡さんを乗せたデュアルスキーは、水を含んで重くなった春の雪をものともせずに急斜面をくだり、アルペンコース内の滑走もスムーズに旗門を潜り抜けていく。技量次第で、あらゆるゲレンデの環境に対応できるという。

 ナスターレースでは、選手一人ひとりを場内アナウンスで紹介していた。その中に、歩行困難の弟と一緒に滑りたいという子供の話があった。僕はさっそくその子とその父親に話しかけ、デュアルスキーの試乗を勧めた。先天的に脳性まひを患っているというその子の弟にデュアルスキーに乗ってもらい、家族とともに滑ってもらうと、父親は「この子がこんなに笑顔になるなんて」とうれしそうに言った。中岡さんが進める「ata Alliance」の活動に、大きな可能性を感じた。

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