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小さな発見 小さな感動

2012年6月30日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 最近、息子の幼稚園ではいろいろな小さな生き物を集めて飼っている。特に彼のお気に入りはダンゴムシで、先日も一緒に通園途中、ダンゴムシを捕まえるのに夢中になり、入園時間に遅れてしまった。
 幼稚園の取り組みが功を奏したのか、これまでオモチャの車以外、あまり興味を示さなかった息子もだんだん自然へ目を向け始めるようになった。

 アンチエイジングキャンプの下見のため札幌市にある藻岩山に登ることになったので、妻と息子を連れて行くことにした。藻岩山は札幌市民にもなじみのある山で、父も僕もトレーニングでよく登った。
 雨上がりの藻岩山は道がぬかるんでいた。最初は、転んで手に泥がついただけでも泣きべそをかいていた息子だったが、登山道のワキに生き物を見つけると夢中になり、だんだん元気になっていった。
 彼は何か発見するたびに僕たちを呼び止める。一緒になってみてみると、様々な種類のカタツムリ、見たことも無い幼虫や真っ黒なミミズ、ゾウムシ、カメムシ、カミキリムシを発見した。藻岩山の森は藻岩原生林と呼ばれ、シナノキ、ミズナラ、シラカバ等の広葉樹が生い茂っていて、枯れ木にはキノコ、岩には多くの藻が生えていて、多種多様な生物がひしめき合っているのだ。突然カツカツと木をたたく音がした。見上げるとクマゲラが朽ち木にくちばしを突き立て餌をとっていた。
 普段、見慣れているはずのこの森も視点を変えてみると、野性味にあふれた原生林となる。おかげで普段なら1時間で登れる山が3時間もかかった。

 現代はインターネットや携帯電話、ゲーム機など複雑なハイテク機器に接することは多いが、自然のなすわざに比べたら水鉄砲並みに単純だ。環境の良いところでできた腐葉土は1グラムあたり数十億もの微生物がいると言われる。これらがお互いに微妙な均衡を持って腐敗、発酵、食物連鎖、寄生、共生などの相互作用を通じて小さな宇宙を作っている。
 子供だけではなく僕たち大人もこうした複雑な仕組みをデジタル式に頭だけで理解するのではなく、実際に触れて観察することが大切だと思う。自然は気まぐれであり、一筋縄ではいかない。神秘性と残酷性も同居する。こうした自然から小さな発見や小さな感動が得られる。すると少し違った人生の豊かさに出合った気になるものである。

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