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海の危険、山の危険

2017年4月1日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 15年ほど前、海の魅力に取りつかれて静岡・熱海でダイビングのライセンスを取得した。あちらのダイビング店(現「ケイズリパブリック」)で、海にまつわるさまざまなことを僕に手取り足取り教えてくれたのがインストラクターの斎藤清昭さんだった。

 首都圏から近い静岡は、沖縄と並んでこの国最大のダイビングスポットである。盛んであるがゆえに県内での事故発生率は実に全国の37%を占めている。県の観光産業としての役割も担っているダイビング業界はこの事態を重く見て、一般市民やダイビング関係者に対して、安全なダイビングと緊急時の対処についての啓蒙活動を行うことにした。その活動を広める目的で同協議会も設立された。
 お誘いを受けた当初は、僕などのダイビング経験が何かのお役に立つのだろうかと戸惑った。だが「登山とスキーという、ダイビングとは全く異なるアウトドア経験からのアドバイスをお願いしたい」(斎藤さん)ということでもあり、承諾した。

 先日、静岡県沼津市で行われた理事会に出席した。報告によると、近年のダイビングの事故の多くはブランクダイバー、すなわち長い期間にわたってダイビング活動を休んでいた人が関わるものだと言う。プランクダイバーたちは、自分の命を預けるダイビング道具の海の中での取り扱いや、緊急の際の対処に不安を抱えているという。海そのものに対する恐れもある。
 そういう場合はリフレッシュコースを受講するのが望ましいのだが、本人の申告がなかったり、ダイビングショップガ黙認したりしたため、海の中でパニックになって事故に至るケースが相次いでいるという。
 さらにまた、インストラクターの引率無しにダイビングをする人も後を絶たない。こうしたダイバーの行動には規則性がなく、地域内に情報が行き渡らないことが危険区域でのトラブルにつながっている。

 こういう話を聞いていると、中高年のブランク登山家や、ガイド無しのバックカントリースキーヤーの遭難事故が続いている山の実態と重なる点が多いことに気づかされる。フィールドは異なるが、危険に対する備えが不可欠なのは山も海も変わらない。

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