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無人島で培う生きる力

2016年9月24日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 夏休みの終わり、YMCA、サントリー、ミウラ・ドルフィンズが共同で開催する毎年恒例の余島アドベンチャーキャンプは小豆島の南西にある余島からカナディアンカヌー2艘接続して作ったカタマランを漕ぎ、9㌔先にある葛島と千振島に向かう。
 葛島も千振島も無人島である。2日間過ごす無人島では衣、住、食の整備が生きるための生活原理となる。中でも食事を作るのは大仕事である。食材は持ち込みであるが、それでも全員で力を合わせないと作れない。初日のメニューは牛丼だ。かまどを作り、まきとなる流木を探し、玉ねぎや肉を切り、水をとりに行き、かまどに火をつけ、鍋を置き切った素材を入れ、火の管理をしながらいためてやっと料理ができる。

 今回の参加人数は小学3年生から6年生の33人で、6グループに分かれる。数人は以前にもこのキャンプに参加しており、慣れた手つきでこなしていくが、多くが初めて参加する子供達だ。彼らは普段の生活環境とは全く違う状況に右往左往する。
 しかし、2日目のカレー作りのときにはそれらの子供達も自分で考えて動き始める。料理がうまい、たきぎがある場所を発見する、かまどのデザイナー、ノコギリの扱いがうまい等々、それぞれの個性が現れ、子供たちの中で適材適所が決まってくる。そして美味しいカレーを作るという一つの目的のために全員が動いていた。

 父、三浦雄一郎は中学受験で落とされた経験を持つ。それは学校の成績や試験ではなく、ぜんそく気味で学校を休みがちだったからだという。その時は目の前が真っ暗になったそうだ、しかし、しばらくして進学した仲間を捕まえ、みんなでイカダを作った。そのイカダはすぐ沈むような代物ではあったが潜水艦として遊べた。そしてその過程で子供たちの結束が戻り、父の気持ちも復活したそうだ。

 現代の子供は、学校に、塾や習い事でなかなか忙しい。自分から積極的に生きるために力を合わせて何かを達成する機会が少なくなっているのではないか。野外料理は僅かな役割を進んで果たすことがそれぞれの自信となり、生きる力になる。子供たちは自分たちで作ったカレーを「うめー」といいながら何杯もおかわりをしていた。

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