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師走のトレーニング

2012年12月15日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先月の遠征で、僕は5㌔ほど体重が落ちた。
 高所で体重が落ちる理由の一つは、食欲の減少によるものだといわれている。2003年のエベレストアタックの際、ジェットストリームに阻まれ、8300㍍でビバーク(野営)を余儀なくされた。そこは酸素が少なく、滞在が長引けば死に至ることからデスゾーンともいわれている。
 ビバークによって登頂どころか、生きて帰ることすら難しい状況で、姉から衛星電話で体調などについて聞かれた。その時の父と僕の答えは「腹減った」であった。この標高でも食欲が落ちない僕たちにあきれて「あれだったら大丈夫だ」。

 父も僕も高所で食欲が落ちず、よく食べる。そのため減量の理由は食欲ではなく、筋肉が落ちたことではないかと考える。いつも、太もも回りや腕回りを測ると遠征中1㌢ほど落ちている。
 長時間登山では筋肉が分解されエネルギーに変わる。また、低酸素では筋肉をつくるためのタンパク質合成が低下する。そのため、見かけの体重は減ったとしても、実際にエネルギーを代謝するための重要な器官である筋肉が少なくなれば基礎代謝が落ちてしまい、「太りやすい」体質に変化してしまう。これを僕は「遠征リバウンド」と呼んでいる。

 師走に入り、深刻な問題として忘年会の誘いがある。僕は「遠征リバウンド」対策として、最近新しくインターバルトレーニングを取り入れた。インターバルトレーニングとは、十分にウオームアップを行った後、3分間最大心拍数の90%ほどで走り、その後2分間呼吸を整える。こうした事を5,6回繰り返すことにより高強度の運動が可能になる。
 NTNU(ノルウェー工科自然科学大学)が行った研究によると、インターバルトレーニングと、その仕事量を合わせた一定のペースでランニングするグループに分けて比べたところ、インターバルランニングの方が大幅に最大酸素摂取能力(持久力を示す指標)が上がり、筋量の増加も見られた。またインスリンの感受性を大幅に改善することからメタボリックシンドロームの対策としても注目されている。 

 来年父と一緒にエベレストに向かう。サポート役の僕も体力、気力ともに充実しなければいけない。忘年会シーズンだからこそ気持ちを引き締め、4カ月後のエベレストへ向かって坂を駆け上がる。

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