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エベレストに向け合宿

2013年2月23日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、父とエベレストのための合宿を志賀高原で行った。志賀高原を合宿場に選んだのは冬季、日本でリフトアクセスできるスキー場で最も標高が高いのが志賀高原エリアだからだ。僕たちが合宿のベースを置いた志賀高原焼額山の標高は2009㍍、さらに横手山は2307㍍の標高を誇る。
 実際のエベレスト登山のための高度順化としては低いが、この標高はアプローチが始まるエベレスト街道の玄関口と同じ高さだ。初期の高度順化や体調調整は後半の体力にまで影響する。そのため志賀高原でスキーや登山を問題なく行うことができれば、初期の高度順化でもうまくいくだろうと考えた。この合宿での父の体調変化の観察はエベレスト登山全体を占う重要な意味を持っている。

 また、合宿では実際に使う登はん具の試用を行った。ウエアのポケットの位置、高所用の手袋の着脱の具合、アイゼンと高所靴のフィッティング、ゴーグルと酸素マスク相性など、どれ一つとってもエベレスト登頂には欠かせない要素だ。標高の高い志賀高原の寒さによってこうした細部の重要性が浮き彫りになる。

 しかし、志賀高原を選んだ最も大きな理由はスキーを思う存分できるからだ。ここは標高が高いため冬期は良質の雪がいつも期待できる。久しぶりに親子でスキーを楽しんだ。
 合宿終盤、僕は父と一緒にどうしても行きたいところがあった。それは志賀高原から渋峠を越えて群馬県側の温泉地、草津まで下りるバックカントリースキー(山スキー)ツアーだ。ガイドを志賀高原で山岳ガイドとスキーツアーを行っている大雲芳樹さんにお願いした。
 志賀高原バックカントリースキーの魅力は高所特有の軽い粉雪がほとんど手つかずの広大な斜面に広がっているところにある。父は「八甲田にも負けない雄大な斜面だった。エベレストが終わったらまた来たい」と草津の温泉に浸かりながら話していた。

 県境の渋峠から草津温泉までスキーで10キロほどの間、父は撮影を行いながら何度もスキーを担いで上がり下りを繰り返したが、今回最も心配されていた不整脈は一度も出なかった。順調な遠征への滑り出しとエベレストを終えた後の楽しみを見つけた父は満ち足りた気持ちで志賀高原を後にした。

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