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自由求む飽くなき精神

2018年3月31日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 友人の元井益郎さんが5月にエベレスト登山に挑むというので先日、壮行会を開いた。
 以前も紹介したように、元井さんは実年齢から18を引いた数字を「本当の自分の年齢」として自分の脳に言い聞かせているという独特のアンチエイジング法を実践している人物だ。ちなみに、彼によると「辰(たつ)年で東京五輪が開催された年(1964年)」生まれだ。

 僕とは10年前に知り合った。以来、山に魅せられた彼は一緒にヒマラヤのカラパタール、富士山の村山古道(田子の浦から26時間かけて富士山頂上に行く過酷な登山)を登り、昨年は一緒に北米大陸デナリに登った。キリマンジャロやコジオスコ、アコンカグアと言った各大陸の最高峰に挑み、今回も成功すれば7大陸中6大陸を完登することになる。挑戦は山だけでなく、マラソンでも世界6大メジャーといわれる大会のうち4大会を完走、残りはロンドンとシカゴだけだ。

 壮行会では平昌五輪の直後ということもあり、僕は自分が平昌でテレビ解説を担当したフリースタイルスキー競技を引きあいに元井さんを激励した。
 フリースタイルスキーに見られる驚異的な空中動作、起伏の激しいコブの中でのスキー操作。そうしたものを体現するトップ選手の根底には「フリースタイルスピリット」なるものがあると僕は信じている。
 フリースタイルスキーの歴史は束縛や制限との闘いだった。アルペン競技がスキー界の中心だった1970年代、自由を求めるスキーヤーの活動がモーグル、エアリアル、バレースキーといった種目を生んだ。しかし、それらも競技化が進み、ルールや規制が強くなると、今度はコースから外れて大きくジャンプしたり垂直の壁を飛ぶ選手たちが現れた。それが現在の五輪種目スロープスタイルやハーフパイプの元となった。 

 フリースタイルスピリットとは、自由を求める心そのものだ。既成のルールや概念の外に飛び出し、行きついた先でも新たなルールや技術、スタイルなどの定型化と闘い、肉体の限界や自然環境の制限、時には重力やスピードと言った物理法則にもあらがって、新しい「自由」の概念をつくりあげることだ。
 そういう意味では80歳でエベレストに登り、85歳のいまも人類の活動の年齢的上限を押し上げようとする我が父、三浦雄一郎は生粋のフリースタイラーであり、その足跡をなぞるかのような元井さんの今回のエベレスト挑戦にも同じスピリットを感じるのだ。

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