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スキーが上達するコツ

2018年1月6日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 恒例のキッズ・スキーキャンプを今冬も開催した。もう40年以上続いているキャンプは、小学生から高校生まで幅広い年齢の子供達を対象としている。
 当然、スキーが上手な子も不慣れな子もいる。僕が一番苦労するのは子供達に話を聞かせることである。特に小学生は集中力が続かなかったり、すぐにふざけたりして、こっちが伝えたつもりででもちゃんと理解できていないことがある。スキーは自然とつき合うスポーツであり、重要な話が伝わらないと事故につながりかねない。

 そこで今回は、僕たちスノードルフィンズの古参メンバーにしてプロスキーヤー、そして一般社団法人「コミュニケーション教育協会」の〝目力師範〟として活躍している庄司克史さんに子供たちの前で講師を務めてもらった。僕は「話の聞き方」のレクチャーをお願いしたつもりだが、意外にも庄司さんは「どうやったらスキーがうまくなれるか」を語り始めた。
 庄司さんが「スキーがうまくなりたい人」と問いかける。ほぼ全員が手をあげる。そこで目力師範は、スキーがうまくなるには「スイッチを入れる」ことが大事だと説き起こす。このスイッチはやる気スイッチで、これをオンにするいちばん効果的な方法はスキーの上手な人から話を聞き、それについて自分の頭で考えることだよ、と話を持っていく。

 スイッチを入れるにはもう一つコツがある。話を黙って聞いているのでは頭に残らない。けれども聞くという受動的な行為に、ある動作をつけ加えればもっと深く理解できるようになる。その動作とは、話し手の目を見ながら「うなずく」ことだ、と庄司さん。
 うなずきとは、相手の話す内容を噛み砕いて脳に入力するという確認の行為である。そして、うなずきの働きをより効果的にするには、聞くときにより良い姿勢をとることだ、と師範は語るのである。姿勢は心の入れ物で、うなずきによってかみ砕かれた内容が姿勢を通して心にスイッチを入れてくれるのだそうだ。なるほど「姿勢」とはスキーに直結することである。

 米国の心理学者、アルバート・メラビアン教授は、感情を扱ったコミュニケーションにおいて言語から得られる情報は全体の7%にとどまり、残りの93%は口調や表情によって伝わると説いた。話を聞く姿勢がその子のスキーの上達につながるとすれば、伝える側も真剣に伝えることが重要なのである。

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