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空中で体ひねる動作

2015年1月24日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 現在、僕はスノーボード&フリースタイルスキー世界選手権の解説を行っている。序盤のフリースタイルスキーのハイライト、エアリアルの演技は圧巻だった。特に男子決勝で優勝した中国の斉広璞選手のダブルフル・フル・ダブルフル(縦3回転、横軸5回転ひねり)は現在、エアリアルで行われる最高難度の技で、空中の演技から着地までコントロールしている姿に鳥肌が立った。

 スキー・エアリアル競技はスポーツの中でもっとも回転数が多い競技で知られている。しかし僕が不思議に思ったのはいくつかの選手の横回転がどう見ても空中からひねり始めていることだ。
 例えば、レイ・ダブルフル・フルという技をスイスの選手が行った。この技はレイ(単純な縦一回転横無回転)からは入り、そこから急激に横にスピンをかけ2回転目に縦1回転している間、横軸に2回転ひねりを加え(ダブルフル)、最後は縦1回転している間に横回転のスピードを落として1回転ひねる(フル)。

 物理の話になるが、端的に話すと選手がジャンプ台から飛び出すときに縦回転の力(角運動量)が発生する。それを縦回転中に片腕だけを縦軸から大きくはずす動きを行い、縦軸の回転に対して不均等を生じさせ、角運動量の方向を変化、横回転につなげるというものだ。縦軸の回転が横軸に変化するので慣性の法則は温存される。
 この現象を地球物理学者のクリフ・フローリッヒ博士は「角運動量ひねり」と呼んでいる。回転は外力を加えない限り生じないと思っていた僕にとって、難しい考えであったが、実はこのコンセブト、僕だけではなく専門家の中でも長い間論争の的となっていた。
 飛び込みの世界ではひねる動作は選手がダイビングボードを蹴った時に始められると思われていたが、1979年の飛び込み米国チャンピオンシップ大会で9人のダイバーが縦2回転半に空中で横軸の1回転が加えられる模様をハイスピードカメラで捉えた。分析した結果「角運動ひねり」が実証された。

 人類は1969年にはアームストロング船長が率いるアポロ宇宙船を月面着陸させたが、以外にも空中でひねる動作の検証がされたのはその10年後であった。アスリートの能力に改めて驚嘆する。

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