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スノーシューの魅力

2015年2月28日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 スノーシューは日本でいうカンジキと似ている。冬用の長靴にスノーシューを取り付けることで接地面積を増やし、雪上での浮力が増す。カンジキと違うのはかかとが浮くので歩きやすく、足の下にはアイゼンがついているのでしっかりとグリップする。そのため足を踏み入れることができなかった雪原や雪山に容易に入ることができるようになった。
 10年前、スノーシューを広げようと活動を始めたのは技術的なハードルが低く、多くの人にも冬山の楽しさを伝えることができると思ったからだ。こうした活動を通じて雪山の楽しさを知り、ひいてはスキーをするきっかけとなればいいと考えていた。
 しかし、こうしてスノーシューを紹介するのだが、彼らはいつまでたってもスキーに移行することが無かった。このことについて先日、スノーシューツアーを行いながら考えてみた。

 スキーは人力で雪山を移動するには最も効率がいい。さすがノルウェーの神話に登場するくらいの歴史を持っているだけある。うまくなれば自由度も増し、フィールドが広がる。
こうした技術習得もスキーの楽しみの一つでもある。しかし、反面、スノーシューで入れるようなバックカントリー等の冬山のフィールドに入るにはそれなりの技量の積み上げと山岳斜面の雪山の知識と道具が求められる。
 スノーシューは技術制限が少なく、楽しむのに急斜面である必要が無いことも魅力だ。冬期以外では足を踏み入れることができない場所、雪がつもった木立の間、凍りついた沼地、池、湖等も絶好のスノーシューの遊び場となる。スノーシューをつけた瞬間から雪のフィールドは歩行可能な冒険の始まりだ。
 スピードのあるスキーでは見過ごしがちな風景もスノーシューでは敏感になる。ゆっくり歩きながら見渡すと多くのことに気がつく。動物の残した足跡、春の芽吹きを待つ木々、ささやくように聞こえる雪が降り落ちる音も雪山の風景の一部となる。

 寒い冬のイメージもスノーシューの適度な有酸素運動によって常に体は温かい。ツアーを行うときは雪で固めたテーブルを囲み、フォンデューやホットワインを飲む。さながら雪山のピクニック気分である。下手にスノーシューを紹介してしまうと、スキーで見過ごしがちな雪山の魅力にとりつかれて、スキーをしないまま終わってしまうのかもしれない。

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