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求愛行動の不思議

2015年10月17日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 ガラパゴス諸島では様々な求愛行為が見られた。アメリカグンカンドリはノドの下にある奇妙な赤い風船を膨らませ、くちばしを鳴らしてアピールすると言う。オスのアシカは自分のハーレムを守るため体を大きく誇示して雄たけびを響き渡らせる。
 中でも僕が気に入ったのはアオアシカツオドリの求愛行為だ。アオアシカツオドリはその名の通り足が見事に青い。この鳥の求愛行動は脚をゆっくりと片足ずつ上げ、自分の脚の青さをアピールする。この動きがなんともユーモラスでかわいい。
 アオアシカツオドリにとって脚が青いことが重要なポイントになる。雄の脚の青さは栄養状態を示す重要なバロメーターである。魚をよく捕まえられるアオアシカツオドリはタンパク質をしっかり摂取できていて脚にはコラーゲンが行き届いている。それは綺麗な青い色素が作られている証拠であると言う。雌はそれに反応するのだ。

 ダーウィンの進化論にはより生存に適した形態を残す「自然選択」ともう一つ「性選択」が提唱されている。性選択は「生存競争ではなく、雌をめぐる雄同士の闘争によって決まる」とされている。
 こうした「性選択」と「自然選択」は時に反対の方向に働くように見える場合がある。今年、スピッツベルゲン島を訪れた際、多くの雄のトナカイの角が落ちていた。雄の角は雌よりも立派で彼らは繁殖期になると雌を獲得するため雄同士で角のぶつかり合いをする。そして、たとえその年に餌が少なく栄養不足でも優先的に角に栄養投資をする。雄のクジャクは見事な羽で雌を魅了する一方、それが重くなり生存に不利な状況を生み出す。
 テルアビブ大学の生物学者、アモツ・ザハヴィ氏はこれを「ハンディキャップ理論」と名付けた。自然界の中で雄クジャクはこうした美しい羽という重いハンディキャップもっても生存できると言うことが強さの証になる。雄トナカイの角も同じだ。

 実は人の脳もこうした「ハンディキャップ理論」の産物ではないかと言う説がある。人間の脳は重さが全体の50分の1にしかならないのにエネルギーの4分の1を消費する。そこから生み出されるのは必ずしも生存に役に立つことではない。芸能やスポーツもトナカイの角と同じかもしれない。必ずしも生存に直結しないものに僕たちは魅力を感じるのだ。


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