見出し画像

「食」で築く平和な世界

2015年3月28日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 12日、父三浦雄一郎が国連世界食糧計画(WFP)協会親善大使となり、僕はその顧問に就任した。

 WFPとは飢餓の無い世界を目指し活動する国連機関である。現在、世界にはおよそ8億500万人が深刻な食糧・栄養不足の状態にある。世界の人口が約70億人にだとすると9人に1人は飢餓に直面していることになる。しかし、WFPは現在の世界の食糧事情を考えれば世界のすべての人々に十分な食料が行き渡ると考えている。
 そのためWFPでは常に世界の食糧事情を分析し、物流を確保、緊急性が伴う自然災害や紛争で食料不足が発生したときの食料調達や経済的支援を行う。慢性的に食料が不足している箇所には中長期的なプランを計画、道路や灌漑設備などの生活基盤の建設、知識・技術向上なども行っている。また栄養不足が特に深刻な発達阻害をもたらす乳幼児や妊婦に対して栄養強化食品の配給、さらに2千万人もの子供達の学校給食を提供する活動をしている。

 僕たちがWFPの理念に賛同したのは4年前に起きた東日本大震災の経験によるところが大きい。当時、少しでも被災者の助けになろうと義捐金を募り、アウトドア用の寝袋、テントマット、マルチビタミン、ガスコンロなどを用意した。しかし、物資を集めたのはいいが、震災と津波の影響で道路が寸断され、もっとも必要な箇所に届けるすべがなかなか見つからなかった。支援したいという思いがありながらそれを届けられない歯がゆさがつきまとった。

 その時、日本が直面した問題を飢餓問題は慢性的に持つ。飢餓が起きる場所は紛争が絶えないアフリカ中央部や自然災害が発生しやすい場所に暮らす人たちだ。こうした場所では個人の助けたいという思いを届けることはとても難しい。
 ところが、WFPは国連随一の輸送集団なのである。彼らは飛行機50機、船30隻、トラック5000台を持っていて、さらに車が入れない辺境では象やラクダの背に乗せて食糧を運ぶことができる。僕たちの思いを直接届ける手段がWFPにはあるのだ。

 食事は力を与えてくれるだけでなく、おいしいものを食べることで精神的にも安定する。僕たちのエベレスト登山はチームで同じ鍋を囲むだけで団結力が増す。もし紛争や国の不安定さが飢餓によるものなら効果的な食糧の調達は平和につながるだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?