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登山の醍醐味

2012年7月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、今年5月に7度目のエベレスト登頂を果たした村口徳行さんと話をする機会を得た。村口さんは開口一番「豪太、今のチョモランマ(チベット側のエベレスト)は相当大変だぞ」から始まった。
 村口さんは優れた登山家であり、また名カメラマンでもある。綿密に登山戦略を練り、隊の能力を客観的に把握し、シェルパと密接なコミュニケーションをとり、柔軟に状況に対応しながら登山をする。
 その彼が「相当大変だ」ということはそれ相応の覚悟をしなければいけない。

 具体的に大変であったもののひとつは天候で、なかなか頂上に立つチャンスが巡ってこなかった。しかし、本当に大変なのはルートにある。過去に村口さんは2回チベット側から登頂している。そのためルートについては熟知しているはずだが、今回見たチョモランマはまるで別物だったという。
 チベット側のルートにはいくつか「ステップ」といわれる崖があり、クライミング技術(岩登り)が必要とされる箇所がある。こうしたセクションには一応ハシゴがかかっているのだが、温暖化の影響か雪が無くなって、崖が格段に難しくなっていた。
 ただでさえ、チョモランマ側はルートがなだらかで長いため、高所での行動時間が長くなる。その上に難易度の高いクライミング箇所が増えると緊急時にすぐ高度を下げることが出来ず、レスキュー体制を組むのが非常に難しいというのだ。

 村口さんからの話を受けて急きょ、当初、体力向上と高度順化を中心に考えていた海外合宿から、クライミング技術を目指した国内合宿をいくつか組み込むことにした。
 先週、その1回目として選んだのが、北海道小樽近郊にある「赤岩」である。ここは60年前、父が山岳部と共にクライミング技術の向上に取り組んだ、いわば三浦雄一郎のルーツともいえる場所だ。
 講師とガイドを元ミウラドルフィンズスタッフで国際山岳ガイドとして世界の山々をスキーで滑り降りた宮下岳夫氏にお願いした。
 岩を肌で感じ、動きに集中しながら登りつめていく。崖の上に立ち、日本海を見つめるとゴバルトブルーに輝く積丹岬に続く美しい海岸線が広がっていた。エベレストに登ることも重要だが、そのプロセスこそが醍醐味であり楽しさなのである。

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