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運動と学力 密接な関係

2017年12月2日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 ソチ五輪スノーボードの銀メダリストである平野歩夢選手のお父さん、平野英功さんが地元の新潟県村上市にスケートボードパークを作った話を前週にしたが、今回もそれに関連した話をしようと思う。平野選手はここでアスリートとしての下地を作った。いまも多くの子供達が練習にいそしんでいる。たが最近は老朽化の兆しが見え、選手育成や子供の活動の場となる新たなパークの建設を市が進めている。
 村上市は僕にも縁のある場所だ。毎年、スポーツを通じて人と町が元気になるための講演を僕はこの地で行っているのだ。新パークのより良い使い方、遊びや運動を通じた建設的な取り組みはないものかと思い、今回は神経精神医学のジョン・レイティ博士の著書「脳を鍛えるには運動しかない」で紹介されている「0時限の授業」の話をすることにした。

 「0時限の授業」とは1990年代に米イリノイ州ネーパーヴィル地区の体育教師であるフィルローラー氏が始めたユニークな体育授業のこと。米国で肥満の子供が増えているのを憂えた彼は、授業前のランニングを生徒に課した。一人ひとりの走る能力を見さだめ、それぞれの最大心拍数の7~8割の力でグランドを4周させる。速い、遅いを問うのではなく、心拍数を基準とするフィットネスの考え方を持ち込んだ。
 驚いたことに、しばらくすると健康面のみならず、生徒たちの学力の向上が認められるようになった。読解や計算の能力が上がったのだ。現在ではランニングだけではなく、個別のエアロバイク、ダンス、カヤックやクライミング、ボクササイズなどの運動をフィットネスレベルに応じて授業前に行うことが学力に影響することがわかっている。
 現在も同地区は、ACTという大学進学のための学力テストの数値は州平均を23%も上回る。国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の成績も優秀だ。米国は毎回数学部門でどうにか10位に入る程度だが、同地区にかぎっては理科で1位、数学で6位という(ちなみに直近の調査で日本は理科2位、数学5位)。

 そもそも人類史において運動と脳の発達は太古の昔から切り離せない。狩をする時、食べられる食物を探す時、人は動きながら学習し、計算して判断することを迫られてきた。こうした人間本来の力を引き出すスケートボードパークになることを、僕は村上市に提案したのである。

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