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「ゴッドファーザー」来日

2017年3月11日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 2ヶ月ほど前、カナダの旧友マイク・ダグラスから電話がかかってきた。僕がスキーのモーグル選手だったころ、マイクもモーグルのカナダ代表選手として活躍していた。よく遠征先をともにし、彼の地元ウィスラーでは一緒にスキーをしたものだ。

 今は二人とも競技を退いたが、スキーヤーとしての彼の業績が輝かしいものになったのは、むしろモーグル選手でなくなってからであった。1990年代後半、モーグルは競技の体裁を整えるにつれてルールが厳格になった。束縛を嫌う一部のフリースタイルスキーヤーは競技を離れ、自由な表現の場を探すようになる。マイクがスキーメーカーのサロモンにかけあって「ツインチップスキー」を開発したのはこの頃だ。
 板のトップだけでなく、テールも丸く反り返ったこのスキーを履けば、スタイリッシュなジャンプができる。スノーパークやハーフパイプでも使用可能で、後ろ向きの滑走もジャンプも自由自在。滑りの幅は一気に広がる。こうして「フリースキー」というジャンルが生まれた。このスキー板を使って彼が残した最初のスキームービーも、新しい動きとして注目され、その後、多くの映像会社がフリースキームービーを作るようになった。

 フリースキーの要素は、欧米で絶大な人気を誇る大会「ウィンターXゲーム」においてスロープスタイル、ビッグエアー、ハーフパイプといった種目に取り入れられ、五輪でも3年前のソチ大会からスロープスタイルとハーフパイプがフリースタイルスキー種目として正式に採用されている。
 けん引役のマイクはフリースキーのゴッドファーザーとも言われている。現在もプロスキーヤーとして活躍しているのだが、先日の彼からの電話の内容は意外なものであった。僕と、僕の父である雄一郎に教えを請いたいというのだ。

 「僕も47歳になる。豪太は抗加齢医学に詳しいし、お父上はなんと言っても84歳の今でも現役のプロスキーヤーだからね。プロとして続けるためのアドバイスを、ぜひ」ということで、彼は東京の僕たちの事務所を訪ねてくれた。
 彼は自分の考えを語り、父を質問攻めにした。「日本食がいいのか?ストレッチはしてもいいのか?運がよくなきゃだめ?」。父は答えて「あまり気にすることはない。スキーを続けることこそが若さである」。それを聞いてマイクはとても満足そうだった。

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