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9回目の体力測定

2013年3月23日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 エベレスト遠征出発を間近に控え、様々な準備があるが、先日、鹿児島の鹿屋体育大の山本正嘉教授の元へ体力測定に父と行ってきた。鹿屋体育大では2001年からほぼ毎年体力測定を行い、今回で9回目になる。東京からはるばる九州の突端まで行く理由は登山生理学の専門家である山本先生のアドバイスをもらうためと、毎年同じ施設と測定者で行うことで経年の流れと対策を確保できるからだ。

 80歳にして3度目のエベレストに挑む三浦雄一郎の経時的な測定値は世界的にも貴重なデータだ。
 これまでの測定で興味深いことがわかった。父は夏と冬では体力の傾向が変わる。冬期には主にスキーをトレーニングとして行うため下肢の筋力が高く出る。反対に夏は自転車や登山を中心としたトレーニングとなるため、有酸素能力の数値が上がる。
 こうした傾向を踏まえた上で今回の測定をみると、有酸素能力は予想した範囲内。驚いたのは筋力の値だ。今回の測定では背筋力がこれまでの最高値を記録した。また下肢の筋力も過去2番目だった。

 体力の衰えやケガ、病気の割合が高くなることから、厚生労働省は75歳を境に前期と後期高齢者に分ける。体力的な加齢度合いは、同じ10年でも、30歳から40歳になるのと70歳が80歳になるのとでは大きく意味が違ってくる。
 父は体力が衰えやすい年代でもエベレストに登るという目標を持ち、トレーニングに積極的に取り組むことによって、一部の体力が落ちないどころか、その数値を「若返らせる」ことに成功した。
 とはいえ、どうしても数値が低くなるものもある。例えば肺活量や有酸素能力は、12年前から少しずつ下がっている。登山ではこうした数値が下がるのが問題なのではなく、このことを知らないことが大きな問題となる。中高年では体力的な過信が登山事故につながるからだ。

 数値が下がったなら下がったなりに登山の方法や考え方を変える。今回のエベレスト登山では、アプローチからアタックまでキャンプ地や宿の移動もこれまでの半分にした。そして活動は午前のみに限定して午後はゆっくりと休む。
 「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」。エベレスト登山も戦略的にまずは自分を知ることが頂上への道につながる。

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