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最北地 独特のルール

2015年7月25日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 スバールバル諸島に家族で行って来た。スバールバル諸島は1920年に締結されたスバールバル条約によって定められたノルウェー領土である。この条約は国際的にスバールバル諸島をノルウェーの領有と認める代わりに、条約締結国は、スバールバル諸島に自由に観光、就労ができるうえ、さらにその気になれば移民することもできる。
 スバールバルは北極圏に位置しており、最北端には人が定住している。土地の60%は氷河に囲まれ、沿岸はフィヨルド、冬は零下30度、白夜の短い夏には極地に順応した野生動物が闊歩し、厳しいながらもダイナミックな生態系が見られる。こうしたことから近年、国際的な科学調査や観光で訪れる人が増えている。
 自然に囲まれた極地という環境のため、いくつか独特の法律がある。その一つが「死ぬ」ことが禁止されていることだ。個々の土地は永久凍土であるため亡くなっても自然分解の速度が極端に遅い。1917年に亡くなった方の遺体を最近調査した。当時はやったインフルエンザウイルスはまだ効力を保ったまま発見された。そのため致命的な有病者、高齢者、妊娠後期の人は受け入れられない。
 もう一つのルールはシロクマに対してのルールだ。スバールバルではあらゆる動植物が保護の対象だ。シロクマも保護の対象だが、時に人を襲うシロクマに出会った時の対処法が厳格に定められている。
 人里離れた場所に行く場合、必ずライフルの所持が義務づけられている。シロクマを見つけその距離が十分あるなら様子を見て、もし近づくようなら大声や身振りで威嚇する。それでも近づく場合、空砲を空に向かって撃つ、さらに近づく場合、シロクマと自分の間の地面に撃つ。30㍍以内に入ったら必ず仕留めるよう急所をめがけて20発以上撃つ。
 昨年チェコ人がキャンプ中にシロクマに襲われてけがをした。彼はシロクマの接近を防ぐ手段(犬を連れて行く、見張りをたてる)をしていなかった。シロクマはテントに入り込み、彼は銃で抵抗した。しかし、シロクマは仕留められず、その後、討伐隊が組まれ、シロクマは殺された。地元の非難はこうした事故を未然に防ぐ手段を講じなかったチェコ人に集中したという。自然保護と人の保全、最北の地では究極のやり取りが法律として存在していた。

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