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リーダーたちの成長

2011年9月3日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 今年も瀬戸内海の余島で子供たちのアドベンチャーキャンプを行った。余島は小豆島の南西にある小さな島で、神戸YMCAは60年間にわたりここを野外活動の場として活用している。4年前から僕らはサントリーの依頼で神戸YMCAに協力して冒険的要素の高いキャンプを開催してきた。
 過去3回は、有人島である豊島の浜辺をベースにしていたが、さらに冒険的にしようと、今年は子供たち28名と余島から北にある無人島、葛島にカナディアンカヌーを漕いで渡り、テントで2泊3日のキャンプをすることにした。途中、世界一狭い土渕海峡を通り、瀬戸内海の海を9㌔こいでわたる行程は子供たちにとってハードだったはずだが、島についた時の彼らの顔は達成感に満ちていた。

 ここからがキャンプ本番。自分たちでテントを張り、かまど、トイレなどを作り生活基盤を築く。
 神戸YMCAの青少年育成活動は、125年の歴史を持つ由緒あるプログラムだ。代々受け継いだその手法は堅実で安心感があるが、僕らミウラ・ドルフィンズの三浦雄一郎のサバイバル精神をもとにしたプログラムに比べると保守的に思えた。逆に、YMCAにとって僕たちのやり方は大胆なイメージがあっただろう。
 4年前に一緒にキャンプを始めた頃、お互いに考え方の行き違いやキャンプの方針について意見が合わなかったこともあった。こうした無人島で生活を行うにはリーダー同士の連携が重要だ。異なる2つの団体が1つにまとまるのは難しい。
 しかし、この4年間キャンプを共に行うことによって、お互いの理解が深まってきた。YMCAは僕らの「島渡り」というサバイバル要素の高い試みに理解を示し、僕らは彼らの外部からのプログラムを受け入れる柔軟性と子供たちへの接し方を学んだ。

 成長が著しいのはYMCAユースリーダーたちだ。そのほとんどは大学生のボランティアでYMCAのプログラムを4年間行い、卒業する。最初はアウトドアに不慣れなリーダーも4年もたつと臨機応変に対応し、安全面にも目が行き届くようになる。
 確かにアウトドアは子供の成長を促すものだが、それを指導するリーダーの成長は重要だ。大自然の困難を乗り越え、理解し、不便を楽しさに変える――。成長した彼らを見て僕はうれしくなった。


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