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裸足とアンチエイジング

2011年7月9日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 クリストファー・マクドゥーガル著「Born to Run」に刺激され、一年以上も底の薄い靴または裸足でランニングしている。いつも痛めている足首や膝は一度も痛まなかった。
 ランニングが歩行と大きく異なるのは、体が地面から離れ、着地時に大きな衝撃を受けることだ。ハーバード大学の「裸足のプロフェッサー」ことダニエル・リーバーマン教授は、アメリカ人とケニア人の中から靴を履く習慣がある人と無い人を選び、走り方を調べた。すると、普段から靴を履く習慣のある人はかかとから着地したのに比べ、裸足のランナーはフォアフット(つま先)から着地し、つま先で着地した方が靴を履いたかかと着地より遥かに衝撃が少ないという研究を発表した。

 裸足で走る技術を検証すると、走るとき足はつま先から着地するようにできている。力強いアキレス腱は衝撃吸収とバネの役割をはたし、26個もある足の骨の複雑な構造はそれに対応する腱、筋肉、関節によって衝撃を和らげるようにできている。土踏まずは頑強なアーチ型となったり、しなやかに変化したりとあらゆる地形に対応する。

 進化のたまものである足を十分に生かすことを考え、あらゆる状況で裸足に近い状態で自分の足を試してみた。ランニングはもちろん、ヒマラヤでは薄いサンダルで岩だらけのエベレスト街道を45㌔歩いたり、森の中で裸足のトレッキングも行った。トゲが刺さるのが心配だったが、足はトゲがあるところでは体重を置く前に察知、避けることもわかった。
 面白いのは、このスタイルでゴルフをしたときだ。進化の過程にゴルフというスポーツがなかったのか、僕が未熟だったのか、わずか9ホールで足裏に痛みを覚えた。がむしゃらに打っていたので無駄な力が加わり、足底筋群を痛めたのだろう。

 この経験をもとに先週末行われたアンチエイジングキャンプで平均年齢75歳の参加者10人に僕が愛用している底の薄い靴を履いてもらい、川遊びした。川に入る前のレクチャーで足の使い方を十分に説明すると、彼らは初めて自分の足のマニュアルを読むように慎重に足からくる情報を読み取り、地面とつながる新鮮な気持ちを感じていたようだ。人類の進化と密接に関わっている足の構造を理解して使うこともアンチエイジングのきっかけとなるのだ。

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