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お風呂の効果に注目

2015年5月23日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 日本ではほぼ全国のスキー場の近くに温泉施設がある。一日スキーのあと、ゆっくりお湯につかる。日本ほどアフタースキーに温泉の恩恵にあずかれるところはないのではないか。こうした温泉やお風呂に入る効果について修文大学健康栄養学部教授、伊藤要子先生の話を聞く機会を得た。

 伊藤教授はHSP(ヒートショックプロテイン)研究の第一人者である。HSPとは熱、紫外線、低酸素、精神ストレスなどによって誘発されたストレスで傷つけられた細胞を保護する効果のあるタンパク質だ。
 HSPは1962年イタリア人の遺伝子学者・リトッサがショウジョウバエを加温する(熱ストレス)と増えるたんぱく質があることを発見したことに始まる。その後、このタンパク質はストレスで傷ついたタンパク質を修復する重要な「シャペロン作用」があることが分かった。

 「シャペロン作用」とはタンパク質の合成、輸送、分解というタンパク質の”一生〟の付き添い薬(シャペロン)として、その機能が発揮できるよう手助けする働きのこと。人体は水分を除けば、多くはタンパク質でできている。筋肉のみでなく体の代謝をつかさどる酵素もタンパク質。健康なタンパク質がその人と言っても過言ではない。HSPはストレスで障害を受けたタンパク質や構造異常のあるタンパク質の機能を回復させる、あるいは修復不可能なタンパク質を分解に導く作用がある。また、HSPはナチュラルキラー(NK)細胞の活性を高めるなど免疫力を増強させる機能も持っている。

 HSPを安全に導き出す方法を科学的な手法で開発したのが伊藤教授だ。教授は40度~42度湯温で20~10分間入浴し、体温が38度に近づくと多くのHSP細胞が発現することを研究し、安全で一般的な家庭のお風呂でできる「HSP入浴法」を開発した。
 この入浴法では、HSPは入浴2日後をピークに1~3日間高い値が得られる。この湯温は、日本の温泉・お風呂の温度であり、日本人に最適かつ容易な健康法ともいえる。その効果は健康向上だけでなくスポーツや登山など、事前にストレスがかかるイベントがあると分かっている場合、2日前からHSPを体内で増やすことで肉体的なストレスを軽減できたり病気からの回復を早めたりすることができる。今後、HSPをもとにした考え方は予防医学の大きな軸となるだろう。

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