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学力の土台は体力

2014年11月1日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 脳由来神経栄養因子(BDNF)は脳の神経細胞の発生や成長、維持、修復に働き、学習や記憶等の脳力に影響を与える脳細胞にとっての重要な栄養分である。近年、BDNFの分泌に最も影響を与えるのは運動であることが分かってきた。

 「脳を鍛えるには運動しかない」の著者、ジョン・J・レイティはその著書のなかでイリノイ州、ネーパーヴィル・セントラル高校にて行われた「0時限」の授業について紹介している。生徒は授業が始まる前に学校のグランドに集まり、心拍計をつけ最大心拍数の80%から90%の間で10分程度の主観的に「きつい」ランニングを行った。こうした運動をさせた後、授業を受けた生徒の読解力が大幅に上がることに着目した教育関係者は、この取り組みをネーパーヴィル203の学区内すべてに広げてみた。
 現在、17年間続く「0時限」の授業の影響は全体的な健康状況の向上のみならず、学力にも大きく貢献しているという。ネーパーヴィルの学区は国際的な指標「国際数学・理科教育動向調査」の理科部門において1位、数学では6位。これは米国の平均(理科18位、数学19位)をはるかに上回る。

 似たようなケースを先日訪れた僕の母校である札幌市立盤渓小学校で見ることができた。盤渓小学校は「子供に知恵と心と健康を」をテーマにした小規模特任学校制度の学校である。「ばんけいスキー場」が目の前にある立地を生かし、年間13回のスキー授業と学校が終わったあと午後6時までスキーができる「放課後スキー」を推奨している。年間の滑走日数は最大80日に及ぶ。
 盤渓小学校の特色はスキーのみでなく総合的な学習の時間の中に「生涯スポーツ」という単元を設け、基礎体力づくりにあてていることだ。通常の公立小学校の1年間の体育の総時間は90~105時間であるが、盤渓小学校の運動時間は170時間余りである。
 盤渓小学校の子供は文部科学省が実施する「新体力テスト」で全国平均をはるかに上回り(2013年度の評価B以上は盤渓92.7%、全国平均37.3%)、さらに学業での成績も良好という。体力重視の授業内容により、文武両道を実践している。

 日本の子供たちの国際的な学力低下が問題視されている。歯止めをかけるには、机に向かう時間を増やすよりも、土台となる体力を身に付けることを優先すべきである。

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