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技あり 九州のスキー場

2015年3月7日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 九重(くじゅう)森林公園スキー場は、九州中央部、大分県の阿蘇くじゅう国立公園の中にある。古くから父の友人である三浦健二朗さんはこのスキー場でレンタルを営み、毎年、モーグルレッスンの講師として僕に声をかけてくれる。 
 僕は九州のような緯度が低い場所にスキー場があるとは思ってもいなかった。さらに驚いたのはハイシーズンの週末、来客数は1日4千人を超える。九州のウインタースポーツへの思いは熱い。

 九重山系の標高は千㍍以上。そのため冬期は氷点下に達するところが多く、支配人の高橋裕二郎氏が予定地を数年かけてリサーチ、その結果、九重山系の猟師山の麓にある現在の場所が最もよいと判断した。
 雪の99%は人口雪。人口雪は気温0度を下回る中で人口降雪機が水を霧吹き状に噴射し、外気によって凍った水分が雪となって積もる。当初は人工降雪の知識がほとんど無く、霧を吹き付ければそれでいいと考えていた。
 ところが、雨が降ったり、九州特有の温かい風が吹くと急激に雪が解け始め、地面と雪の間に水の流れができ、それが斜面に積もった雪を塊で流してしまう。これに対処するために手作業で側溝を巡らせ、雪解け水を誘導するようにしたという。

 また、人工降雪機にも工夫を施した。人工雪を降らすとき、圧縮した空気と混ぜ合わせて水分を噴射する。しかし、空気は圧縮する過程で熱を持ってしまう。特殊な装置で一度冷やすが、それでも空気温は20度ほどにしか下がらない。彼らが開発した「空気除湿冷却装置」(実用新案取得)は、圧縮空気を0度に近い外気温にまで下げて除湿した空気を噴出する。これを大量に雪を降らす「スノーガン」に取り付け、気温0度前後でも確実に雪を確保している。さらに気温0度以上でも使える「アイスクラッシャー」、ピンポイントに効率よく雪を積もらせる「スノーマシン」等を場面に応じて使いながらスキー場を12月初旬から3月末まで維持している。

 温暖化が進む中、多くのスキー場が人工雪で対応している。今年オーストリアで行われた世界選手権、昨年のソチ五輪会場もほぼ人工雪だった。今後こうした傾向は世界中で続く可能性がある。九重森林公園スキー場の技術はウインタースポーツの存在を左右するものとなるかもしれない。

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