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ドレミリーダーの音色

2012年4月21日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、僕らの友人である市川高嶺さんの「市川高嶺&ポーランド・シレジア・フィルハーモニー管弦楽団」コンサートを東京・八王子市芸術文化会館に聞きにいった。
 彼女は桐朋学園大学研究科修了後、パリ・エコールノルマル音楽院に留学。マドレーヌ・ドゥ・ヴァルマレート・ピアノコンクール1位、UFAM国際音楽コンクール室内楽部門1位など国際的にも輝かしい成績を収めている。

 しかし、こうした文化的な一面を僕たちの前で見せることはめったにない。彼女は子供の頃からミウラ・ドルフィンズのキャンプに参加し、最近ではリーダーとしてキッズキャンプを手伝ってもらっている。スキー場では積極的に深雪やモーグルにまで挑み、島キャンプではカニや魚を捕まえ、それをさばくのもお手のものだ。今ではスタッフや子供たちから「ドレミリーダー」と呼ばれ親しまれている。 
 ピアノの前に座るとがらりと顔つきが変わる。コンサートで彼女が弾いた曲はシューマンのピアノ協奏曲イ短調。曲が始まると、力強い音色が滝のように降り注ぐ。山をぬって流れる川のように時には優しく繊細に、時には力強く迫ってくる。普段音楽に疎い僕も彼女の奏でる音色にぐんぐん引き込まれていった。演奏が終わり、満席の会場はいつまでも拍手が鳴り止まなかった。

 ピアニストなど音楽家はケガを恐れて、スポーツやアウトドアを敬遠しがちなものだ。しかし市川さんにとって自然とのかかわりは彼女の一部であり、奏でる音楽に重要な影響を与えると言う。山に吹く風、海の波、自然のさざめきなどの情景をイメージし、体感したことを音楽を通じて表現するのだ。
 三浦雄一郎を隊長にして始まった子供のキャンプは40年以上の歴史がある。僕らが心がけることは父雄一郎が祖父敬三から継承したもの。それは教えるのではなく子供らが自ら自然を感じ取ることを大切にしていることだ。

 ミウラ・ドルフィンズから巣立った仲間たちは音楽、教育、企業、医学など様々な分野で活躍している。その多くが休みを利用して次の世代の子供たちへバトンをつなげようと喜んでキャンプの手伝いにはせ参じてくれる。自然と触れ合い、自然から謙虚に学ぶことで人は強くも優しくもなれると思う。

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