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足温める大切さ

2017年1月28日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 今年の春、米国最高峰、アラスカ山脈のデナリ山(6190㍍)に登るための準備を進めている。課題になっているのが足元だ。今回デナリ山の麓まで飛行機で行く。そこから長く緩やかな斜面の氷河移動にスキーを使おうと思っている。

 これまでプロのスキーヤーとして滑走技術に磨きをかけてきた。しかし、スキーの用途はそれだけではない。スキーは雪山を人力で移動するとき、最も効率の良い道具でもある。
 滑走面にシールと呼ばれる粘着性のある逆毛のついた生地をつけると雪面では後方面にグリップが効く。こうすれば足をそれほど上げなくても深い雪でも沈まず進むことができる。さらに長いスキーは隠れたクレバスに落ちるリスクも減らしてくれる。
 このように氷河帯の移動の時、スキーは重宝するが、課題は頂上アタックである。軽量化のため今回はスキーを履いている靴で登る。最近はスキーも登山もある程度の機能が確保された兼用靴というものが発展した。問題は本格的高所靴よりも足が冷たくなることだ。寒冷地では生理的に暖かい血液を体の中心部に集めようとするため足先のような末端は冷えやすく凍傷になりやすい。足を守る工夫が必要だ。

 そこで行きついたのがインソールヒータである。インソールヒーターは靴底に電熱線が入っており充電したバッテリーで足底を温める。バッテリーは8~10時間持つので予備のバッテリーを持てば最終アタックの局面だけに限っての使用であれば十分と考えた。最近はソックスヒーターまで現れ、今年の北海道の寒波でそれぞれを試す機会があった。
 そんな中、ニセコモイワでの試乗会に行ってきた。スキーブーツのインナーにはなんとヒーターがついていた。米国スキーブランドの輸入販売を手がけるK2ジャパンの田中秀明社長は「寒い中、足が冷えるとバランスが悪くなる。それを防止するため」と話す。

 ブラジルのロンドリーナ州立大学で行われた実験では20人のバスケットボールプレーヤーと20人の一般人が20分間、足首から下を冷たい水に浸した結果、全員が下肢筋群の筋電図のデータに低下が見られ、垂直跳びが低下し、さらに接地面反応時間の低下によりバランスが損なわれる結果となった。
 足を温めるのは凍傷だけでなく、転倒や滑落のリスクを減らすことになるかもしれない。

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