見出し画像

大自然で体力づくり

2011年7月30日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 僕たち三浦家の面々は2003年のエベレスト登頂後、幾度となく鹿児島県の屋久島を訪れている。日本で初めて世界遺産に指定されたこの島は、あの縄文杉だけではなく、素晴らしい大自然に満ちた山や海とスケールの大きなフィールドで、理想的なトレーニングベースだ。
 屋久島には九州最高の宮之浦岳(1936㍍)を筆頭に多くの高山が連なっている。こうした地域性から島には古くから山岳信仰があり「岳参り」という儀式がある。人々が住む島の海辺側の山々を前岳と呼び、島の中心部の高地地帯を奥岳として、岳参りは村から奥岳に祭られている一品宝珠大権現をお参りする行事だ。

 13年のエベレスト(チョモランマ)挑戦へ向けて、父と僕はここでトレーニングをスタートした。まず足慣らしとして、前岳の海からそびえたつ岩山、モッチョム岳に登ってみた。午前中、海で泳ぎ、少し甘く見て11時ころから登り始めた。ところが急峻なうえ、大きな段差が至る所にあり最後はロッククライミングさながらの登山となり、手強くて時間を要した。予定を大幅に過ぎた闇夜の中へとへとで下山し、あわやビバーク寸前となった。
 まるで素人のような失態だが、こんな過ちを犯したのは屋久島ではこれが初めてではない。6年ほど前、知人を連れて大川の滝から登り始め、永田岳、宮之浦岳を縦走し、宿泊予定地であった高塚小屋にたどり着くことができずに急きょ、宮之浦岳山頂直下でビバークした。

 周囲100㌔の島であるが、その山岳地帯は思いのほか奥が深い。だからこそヒマラヤに向けても本格的なトレーニングができる。屋久島がトレーニングにふさわしいもう一つの理由は、この島が持っている癒しの効果だ。島を取り巻く黒潮は膨大な水蒸気を発生させ、それが高い峰にぶつかり、大量の雨となる。この巨大な水の循環システムが緑豊かな森を育み、川となり芳醇な土壌の養分を海へ届ける。このシステムを中心に多様な生態系が保たれており、地元でとれる農産物や魚介類はおいしく、きれいな水と空気と共に身体を癒してくれる。

 強くなるには、以前より力をつける「超回復」が必要だ。まさに大自然の厳しさと癒しが共存する屋久島で僕らは心身ともに強くなっていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?