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健康には筋肉が重要

2017年5月6日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先日、京都大学の森谷敏夫名誉教授と共同研究について話をする機会を得た。森谷先生は長年、EMS(エレクトリカル・マッスル・スティミュレーション)の研究を行っている。
 EMSとは筋肉を外部の電気刺激によって動かし、筋力トレーニング効果を得るものである。当初は医療用やリハビリの効能のみを期待されていたが、やがて一般トレーニング器具として市場に出回るようになる。その過程で、効果の疑わしい製品も多く登場した。

 森谷先生は、電気刺激の周波数に問題があると考えた。これらの製品の多くは周波数帯が
1000~5000ヘルツほどだった。実際に人が随意に筋肉を収縮するときの周波数は20ヘルツ程度。随意刺激よりも、はるかに高い周波数で筋肉を刺激していたのだ。
 この問題に注目した先生は、EMSを周波数20ヘルツに抑えると筋肥大が起き、それ以上でもそれ以下の周波数でも効果が少ないことを突き止めた。
 製品化にむけては障害もあった。20ヘルツほどの低周波だと、皮膚との間に電気抵抗が起きてピリピリとした痛みが感じられるのである。この解消に向けて研究を続けて、最初の試作品ができたのが5年前。ちょうど私の父の雄一郎が80歳でエベレストに旅立とうとしていた頃であった。当時の父は不整脈で苦しみ、手術を重ねていた。心臓が回復するまでの間、試作品を森谷先生から借り受けて、筋力の維持に努めた。そして現在、その研究成果はMTG社と共同開発したSIXPADという商品に反映されている。

 森谷先生がMTG社員向けの講演を行うというので僕も拝聴した。先生は現在日本が直面している、平均寿命と健康寿命との開きを危惧しておいでであった。健康寿命とは健康上問題なく日常生活を送れる期間。日本人はこれが男性で約9年、女性で約12年、平均寿命よりも短い。単純な老化だけではなく、生活習慣の問題やロコモティブ症候群(運動器機能不全)が絡んだ不活発な日常に根ざしているという。
 筋肉不足は多くの深刻な問題を引き起こしている。加齢に伴うサルコペニア(骨格筋低下による身体機能低下)及び肥満、隠れ肥満が炎症、血管疾患、糖尿病、がんなどに関連していることが多くの研究で明らかになってきている。成人の3割以上の体重を占める筋肉は肉体の最大器官とも言える。健康と筋肉、そこには深いつながりがあるのだ。

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