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富士登山は不死の妙薬?

2015年9月19日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 9月3日、実川欣伸さん(72)に誘われて富士山に向かった。実川さんはこの時既に1826回登頂。まぎれもなく人類史上最多の富士山登頂者だ。
 実川さんは数だけではなく、その登り方にもこだわりがある。富士山8回連続登頂、東京駅から東海道を抜けて富士山登山、大阪にある日本一低い山(天保山)から8日間掛けての富士山登頂などその挑戦は枚挙にいとまがない。

 僕が前回、誘われたのは実川さんの1千回目の登頂を記念した日本最古の富士登山道「村山古道」だった。この時は田子の浦から始まり村山浅間神社を抜けた後、道に迷いながら登頂し下山、27時間の強行軍であった。毎回ハードな計画なため誘われるのも緊張する。今回の計画は「小田原から金時山を経て富士山に向かう」というものだった。
決行の朝、スタート地点には実川さんと彼の仲間7人が集まった。その中に金時山の主、戸倉陽一さん(72)もいた。彼は金時山を3800回、富士山を1071回登っている。都倉さんとは前回、村山古道を登っているときも一緒で、山に登るのにストイックな実川さんに対して戸倉さんはキノコや山菜をとりながら山を楽しんでいるようだ。その知識量も並大抵ではない。実川さんといい、戸倉さんといい、70歳を超えたとは思えない超人的な体力、気力がある。今回のルート作りは都倉さんが行ったという。

そのルートとは小田原の御幸の浜から始まり、そこから塔ノ峰、明星ヶ岳を経て金時山を登る。その後小山町に下り、不老山、西丹沢の山々を経て須走口から富士山に登る予定であった。
朝に出発、夜通り歩き翌日の昼過ぎには山頂にたどり着くはずであったが、実際には予定の30時間を大幅にすぎて、やっと15時に須走口5合目に着いた。このまま山頂に行くと、僕は翌日、名古屋で控えている仕事に間に合わない。やむなく下山した。
翌日、名古屋から実川さんに電話を掛けた。実川さんたちが頂上に着いたのは夜の9時半であったという。「それで今どこにいますか」と聞くと「今朝一度下りてまた9合目に登り返している」という。

実川さん、都倉さんが富士山を登り始めたのは定年後である。富士山を通して充実した体力を得ている2人を見ていると、富士山には「富士の妙薬」があるのではと思ってしまう。

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