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登山支えるポーター

2017年6月10日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 今回の稿もまた、この春に終えたネパールのコンマラ遠征のご報告。この遠征は、ヒマラヤ山脈のチョオユーからスキーで滑走するという来年の計画に向けた事前トレーニングを兼ねていた。スキーや氷河の上で活動するための装備を持ち込んだため、通常のトレッキング以上の大荷物となった。クンブ地方と呼ばれるこのあたりでの荷の運搬には、ポーターや高所に適したウシ科の動物ヤクが不可欠である。だがここ数年、ネパールの事情や登山状況が絡んで、ポーターやヤクを確保するのがとても難しかった。

 ポーターは季節労働者である。需要が集中するのは、モンスーン(雨季)が来る前の春(3~6月)とモンスーンの去った秋(9~12月)。トレッキングの観光シーズンだ。特に春はエベレスト登山の時期でもあり、例年でも荷の運び手が不足しがちであるが、今年は特に供給が追いつかない事情があった。エベレスト登山の許可を求める海外からの申請が過去最多の371件に膨れ上がったのだ。過去2シーズン、登山ルート上にあるアイスフォールの崩壊、それとネパール大地震によって登山が困難になっていた。その救済措置として、ネパール政府は自然災害によって雄図を阻まれた登山家に対し、申請の有効期間を5年延長した。今年の集中は、足止めを解かれた過去の申請者と今年の申請者が重なったためだった。

 彼ら海外登山家1人につき2~3人のシェルパがアシストする。仕事は登山アシスト、コック、ポーターなど。春、エベレストのベースキャンプにはシェルパと外国人、その他もろもろで1000人ほどが集まり、クンブ地方で最大の"村“となる。
 例年に輪をかけたエベレスト遠征がらみのにぎわいに、20年ぶりに行われたこの国の地方選挙がちょうど重なった。ネパールでは期日前投票がなく、それぞれの地元に戻って票を投じなければいけない。投票日は5月14日。ポーターたちが遠征への参加を渋り、僕たちも難儀した。遠征が長引けば彼らは地元にも帰れず、投票ができなくなるからだ。

 一般に、エベレスト街道で働くポーターは高所民族のシェルパだと思われている。だが彼らのほとんどは標高の低い村からの出稼ぎでやってくる他民族。この国を支える観光産業の担い手だ。登山家ばかりで荷の運び手が不足したこの春、彼らの価値を再認識することとなった。


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