見出し画像

つま先で衝撃なく下山

2011年10月15日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 先週のコラムで、山下りが筋肉痛を引き起こすが、同時に速筋繊維を鍛え、若返りのホルモンIGF-1の分泌を促す話をしたが、さらに補足したい。

 鍛えるには痛みがつきものというイメージがあるが、必ずしもそうではない。米ノースアリゾナ大学の研究では筋力トレーニングを定期的に行えばエキセントリック(伸張性収縮)運動をしても筋肉痛が起きにくく、筋肉痛があっても無くてもそうしたエキセントリックな運動で若返りのホルモンであるIGF-1が上昇し、筋肉も増強するという報告をした。またベルリン大学の研究ではこうした事が80歳を過ぎた年齢でも起こり得るという。

 しかし筋肉痛が無くても間違ったやり方をすればケガのもととなる。特に登山では下山の方がより難しい。コツはしっかりとひざを曲げて着地の時の衝撃を和らげるように下山すること。筋肉は疲れるが、その後の超回復により持続すれば強くなる。
 反対に乱雑に飛ぶように下りたり、疲れて膝をあまり曲げず衝撃を受けるような下りを繰り返したりすると、衝撃は関節にくる。関節の中には骨同士の衝撃を緩和する軟骨があるが、傷つきやすく治りにくい。

 最近、下りについて面白いことに気がついた。それは、爪先から着地するように心がければ、自然と衝撃が少ない下り方になるということだ。
 解剖学的に、爪先で衝撃を緩和するときに大きな役割を果たすのはアキレス腱だ。アキレス腱には2つの筋肉がついている。1つはヒラメ筋といって遅筋繊維からなる筋肉だ。これは脛骨(けいこつ)についていて足首の関節をまたいでいる。
 もう1つは腓腹筋といってヒラメ筋の上からかぶさり、足首とひざ関節に作用する筋肉で、主に速筋繊維からなる。論理的に考えると下りの動作で主に速筋繊維が優位に動員されるのなら、足首が衝撃を緩和するときは、腓腹筋が活躍するだろう。すると腓腹筋はひざ関節にも作用するため、自然とひざが曲がるようになり、結果、アキレス腱とひざを曲げる動作の両方で衝撃が和らぐことになる。

 この説は持論の域を出ないが、これまでの登山靴は足首を守るためにハイカットで硬く、爪先から着地する動作を阻害しているものが多い。人類は何万年もかけて足を発達させてきた。守るだけでなく積極的に使うことで強くなるのではないか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?